The Midnight Seminar

読書感想や雑記です。近い内容の記事を他のWeb媒体や雑誌で書いてる場合があります。このブログは単なるメモなので内容に責任は持ちません。

Research Blogging——学術研究の業績をブログで広めるためのプラットフォーム

 Research Blogging(以下「RB」)という、「査読付きの学術論文を参照して書かれたオリジナルな意見であること」をルールとして書かれたブログ記事をネットワーク化する試みがあって、とても面白いので毎日チェックしています。


Research Blogging(http://researchblogging.org/)


 これは一言で言えば、学術研究の成果を一般にも分かりやすく紹介するようなブログ記事をまとめるためのプラットフォームです。自分の研究について宣伝するための仕組みではなく、ジャーナルを読んで面白いと思った論文を紹介して広めるための仕組みですね。
 数千のブログがRBに登録していて、記事数は数万にのぼり、かつ毎日どんどん更新されています*1
 ググってみたところ、RBについて日本語で言及している記事は全く見つからなかったので、どのようなサービスなのかをまとめておきます。あわせて、RBについて研究した論文も紹介しておきます。

Research Bloggingとは?

 RBのサイトに行って、たとえば「Social Science」というカテゴリを選択してみると、社会科学の分野で何らかの学術論文に言及しながら書かれたブログ記事が新しい順に表示されます。


http://researchblogging.org/post-search/list/tag_id/15 
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 このページは、RBに参加しているブロガーの投稿した記事をまとめているだけなので、記事をクリックするとそれぞれのブログサイトに飛んでいきます。
 RBに参加しているブロガーたちは、常にRB向けの記事を書いているというわけではなく、学術論文に言及する記事を書いたときのみ、その記事をRBに登録するためのパーツをブログ記事中に貼ります。そうすると、その記事がRBのシステムに捕捉されて、RBのまとめページに表示されるというわけですね。


 RBの記事は、査読付きの学術論文を参照・引用しながら記事を書くという一線を守ることで、ブログ記事の客観性とかクオリティが良い感じに担保されており、はてなブックマークとかDiggの人気記事を読んでいるより面白いと感じることも多いです。
 RBにブログ記事を登録する基準というのも定められています(リンク)。要するに、単なる引用みたいなしょうもないブログ記事ではなく、意味のあるオリジナルな意見が書かれた記事こそがRBのネットワークに登録される価値があるとされていて、酷い内容だとRBのネットワークから削除されることもあるようです。


 RBの記事を見ていると、たぶん研究者や大学院生などの専門家が書いているブログが多いんだろうと思われますが、科学雑誌の公式ブログみたいなのもけっこうRBに参加してるみたいで、むしろそういうやつのほうが更新が盛んだったりするイメージです。
 さすがにブログ記事だから、学術とは言ってもあまりマニアックな感じではなく、一般の人間にも分かりやすいように書かれているものが多いように感じますね。

 文化人類学、天文学、生物学、化学、コンピュータサイエンス、工学、環境、地理、健康、数学、医療、神経科学、哲学、物理学、心理学、社会科学、学問論、その他

 というふうに分野がわかれていて、それぞれの分野ごとのRSSフィード(リンク)も用意されています。私は「全てのトピックス」「心理学」「社会科学」「文化人類学」のフィードをRSSリーダに登録して購読してます。「文化人類学」はほとんど更新がなく、「社会科学」も更新頻度は低いですが、「心理学」は毎日新しい記事が流れてきます。


 RBの記事は非常に面白いんですが、英語の記事ばっか読んでると疲れるのでw、日本でも同様の試みが広まってほしいな〜と思っています。
 たとえば、はてなブログとかはてなダイアリーのユーザーの中には、もともと、大学院生とか研究者の人とかも多いという印象があるので、はてなのサービスとして、アカデミック寄りのブログ記事を集めて質を担保するような試みが行われると、たぶん読者として非常にハマると思うんですよね。実際、私がふだん読ましていただいているブログにも、論文をたくさん紹介しているものはあります(たとえばこのブログ)。


 はてブのホットエントリは、ネタ的に面白い記事は多いですけど、読者の中には「信頼できる記事」を求めるニーズもあると思います。
 はてブやTwitterで流れてくる記事というのは、要するに「みんなが面白いと言っている」という基準で選別されたものです。それとは別の基準で「読むに値する記事」を選別したい場合、今の日本語ネット空間だと、たとえばBLOGOSアゴラYahoo!ニュースの署名コラムがありますよね。これらは基本的に「信頼できる書き手」「面白いことが言える書き手」を集めることで、記事のクオリティが保たれているものと理解できると思います。


 一方RBは、「査読付きの学術論文を参照する」という基準によって記事のクオリティを保つ仕組みになっています。査読(審査)という過程を経て公開されているということは、その論文には専門家のチェックが入って、「科学的業績として意味がある」と認められているわけです。つまり極端にいうと、RBのブログ記事の内容がさほど気の利いたものでなくても、そこで参照されている研究自体は「価値があるもの」として学者のコミュニティで認められたものなので、少なくとも「根拠のある記事」であることは間違いないわけです。
 ほんとに「確かな根拠がある情報」を読みたいんだったら論文やジャーナル(学術誌)そのものを読めってなるんですが、それはその分野の専門家以外の人にとってはけっこうダルいわけでして、読者を選んでしまいます。学術論文を参照しながら分かりやすく解説したブログ記事を読んで「へ〜!」って言いたい(そして気になったら参照されている原著論文に当たることもできると良い)というニーズは、それなりにあるはずです。
 「書評」というのはブログの世界ではよくあるネタですが、それとはべつに「論文評」というジャンルを開拓し、しかもそれをエントリ単位で分野ごとにネットワーク化するような取り組みがあれば、便利かつ面白い仕組みになること間違いなしだと思います。


 実は、RBには日本語のブログ記事を登録することもできるので、べつに日本版の新たな仕組みの登場を待つまでもなく、アカデミック寄りのブロガーがみんなでRBを使えばいいとも言えると思います。
 私はべつに「ブロガー」ではないし「専門家」を名乗るほど何かに詳しいわけでもないですが、一応いまは大学院生の身分になったので、何かの論文を参照してエントリを書くこともあるかもしれないと思い、試しに登録してみました。
 ただ現在のところ、言語設定のリストを見ても「Japanese」は選択肢になく、「other languages」を選択して「Japanese」と入れるしかないですね。でもふつうに使えることは使えるので、日本でもRBの知名度が上がって、みんなが日本語のブログポストをRBに登録するようになっていけば、面白いと思います。

Research Bloggingのつかいかた

 RBがどんな機能を持っているのかは、↓に説明されていますが、これだけ読んでもよく分かりません。
 http://researchblogging.org/static/index/page/about
 なので、私も自分で実際に登録してみたついでに、利用の流れを簡単にまとめておきます。


 RBに参加しようと思っているブロガーはまずRBの事前登録ページ(リンク)へ行って、自分のブログを登録します。このとき、氏名やブログのURLの他に、自分の専門分野とか言語も設定することになります。
 登録は、フォームに必要事項を記入して送信すれば終わりなのではなく、RBの事務局側の登録作業を待たなければなりません。私が申し込んでみたら返事がくるのに2日ぐらいかかりましたが、ブログを一応事務局がチェックして、SPAMじゃないかどうかの審査ぐらいはされてるんですかね?
 日本語のブログを見て審査できるスタッフがいるのかどうか不明ですが。


 とにかく、登録が完了すると、RBのサイトにマイページができて、ログインができるようになります。
 ここからは、実際にブログ記事を書いて登録する手順です。


 RBのネットワークに登録してるブロガーは、面白くてぜひ他の人にもシェアしたくなるような論文をみつけたら、まずそれについて自分で考えたことなどをブログ記事に書きます。
 で、RBのサイトへ行って、↓の画面のような論文参照ツールを開きます(これは事前登録が完了すると使えるようになる)。


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 この論文参照ツールに論文タイトルなどの一部や、DOIなどの論文識別子を入れると、↓のように検索結果が表示されます。


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 検索結果から該当するもの(自分が言及しようと思っている論文のもの)を「Use Citation」で選択すると、↓のように、参照内容を編集する画面が表示されます。
 この編集画面の挙動をまだよく理解していないのですが、選択したものによって、自動で必要項目が入力されている場合もあれば、著者名から自分で入力しないといけない場合もあるようです。同じ論文で複数の検索結果が存在するのは、論文識別子の体系(DIO、PMIDなど)ごとに参照情報が生成されているからだと思います。
 なお、RBの検索システムが見つけてこられなかった論文に言及したい場合は、ふつうに著者名から打ち込めば良いようです。日本語の論文は今のところ、RBのほうから検索してもヒットしないので、日本語でイチから記入するしかないんでしょう。


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 必要事項を一通り入力して、「Generate Citation Code」というボタンを押すと、その参照情報をブログに表示するためのソースコードが与えられます。


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 このコードを、自分のブログ記事の中にコピペして、ブログを公開します。すると、そのブログ記事が書かれたことがRBのシステムに把握されて、RBのインデックスにブログ記事が登録され、RBのフロントページにも最新記事として表示されます。
 その記事がもしSocial Scienceのカテゴリにひもづけられたものであれば、そのカテゴリのRSSフィードを購読している人のRSSリーダにも、もちろんその記事が流れていきます。


 さて、ちょうどRBの意義について論じた論文があったので、今回はこれについて言及してみようと思います。Fausto, S.らの“Research Blogging: Indexing and Registering the Change in Science 2.0”という論文で、RBの仕組みを解説するとともに、各種データをまとめている、2012年の論文です。
 上記ツールを使うと、↓のような埋め込みようパーツ(コード)が生成されました。左の画像は単なるRBの宣伝用ですが。論文のPDFが読めるページ(リンク)のURLも入力したのですが、反映されませんでした。やはりまだ挙動がイマイチつかめません。


ResearchBlogging.org

Fausto S, Machado FA, Bento LF, Iamarino A, Nahas TR, & Munger DS (2012). Research blogging: indexing and registering the change in science 2.0. PloS one, 7 (12) PMID: 23251358


 さて、この論文によると、RBに登録されている記事の分野としては生物学が一番多く、医療、心理学、神経科学が続いています。ブログ言語は圧倒的に英語が多く、登録ブログ数も1000を越えていますが、他の言語はブログ数が数十程度しかなく、ぜんぜん盛り上がってない模様です*2
 参照されている論文のうち、オープンアクセス(ネット上でタダでPDFをみれる)の論文の割合はWikipediaよりも高いらしく、ブログ記事からのリンクを辿ることで原著論文を容易に当たることができるものが多いのがRBの特徴だと言っています。
 また、学術誌における引用数などをもとに論文の影響力を算出している例としてJCR(Journal Citation Reports)というのが取り上げられており、その影響力指標を、RBにおける引用数や閲覧数と比較しているのですが、両者の間にはあまり強い相関がないというデータが紹介されています。これはつまり、RBで人気のある論文と伝統的な学術誌の世界で人気のある論文の傾向は異なっているということで、ブログ空間では伝統的な学問のコミュニティとは別の観点から研究業績が評価され得ることを示していると著者たちは言っています。


 ググったり論文検索をしてみると、RBとは関係なく、「科学の業績をブログという媒体をつかっていかに広めていくか」「ブログを、研究の質の向上にどう生かしていくか」みたいなことは、けっこう議論されているようですね。私が知らないだけで(というか調べてすらいないですが)、RBに似たプラットフォームが他にもあるのかもしれません。


 いずれにしても、こんな感じで機能するRBのような仕組みが、日本でも流行ったらいいな〜と思います。私は何かを書くというより、読者として非常に期待しますw
 誰か影響力のある人がRBを紹介して、誰かがRB公式サイトの日本語化対応を行えば、一気に広まりますよねたぶん。内容的にはぜったい面白くなると思うので。


 【投稿後追記1】
 上記のように、RBのコードを挿入したエントリを公開すれば速やかにRBのシステムに把握されてはいるようですが、試しにこのエントリの登録を試みてステータスをチェックしてみたところ、「インポートはされてますが、スキャン中です」という状態が丸2日続き、その後に無事RBのフロントページに掲載されました。この「scan」が何を意味するのかはイマイチ不明ですが、もし内容のチェックまで行っているとすれば、日本語だから時間がかかっているのかも知れません。


 【投稿後追記2】
 ↓のように、「古いブログ記事をインポートする」という機能があります。


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 たぶん、RBのシステムはRSSフィードで更新情報をチェックしているので、自動で読み込んでくれるのは新規に起こしたエントリだけであり、昔書いたエントリでRBに載せたいものがある場合は、この機能を使えということでしょう。
 ちなみに私は、このエントリがなかなかRBのフロントページに反映されなかったので、インポート画面にこのエントリの情報を入力してみました。すると「そのエントリはすでにインポートされてます。いま、そのエントリをスキャンしてる最中なので、もうちょっと待って下さい」というエラーメッセージが出ました。


 【投稿後追記3】
 ↓のとおり、無事、掲載されています。


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 数行で記事のサマリが表示されていますが、これは上記のとおり私が「古い記事のインポート」画面で入力した概要情報です。日時設定も、「古い記事のインポート」画面で入力した情報が反映されています。
 私が「古い記事のインポート」画面を使ったのは、上記のとおりイレギュラーな動きであり、通常はサマリを設定はしないので、このフロントページには単純に記事の最初の数行が表示されるようです。


《2016年6月19日追記》
RBから日本語のカテゴリが消えたようです。
なので日本語の記事はポストしても反映されない気がします。


《2018年6月2日追記》
RBの最終ポストが2017年6月で、それ以降新規ポストがないですね。ご臨終か。

*1:新着記事は全体で1〜2時間に1本ぐらい

*2:でも、その言語で書かれたブログのうち質の高いものが参加しているのであれば、十分面白いのかもしれない。