数日前、東京で3人の銀行員と飲んだ際に、今売れてる『ルポ・貧困大国アメリカ』(堤未果、岩波新書)が話題になって、面白いと言われたので買って読んでみたら本当に面白かった。いやまぁ内容は一面的だけど。面白いルポって、女性が書いたものが多い気がする。
- 作者: 堤未果
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/01/22
- メディア: 新書
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アメリカ経済に関するルポといえば、小林由美というエコノミストが書いた『超・格差社会アメリカの真実』(日経BP)という本もけっこうおもしろかった。
- 作者: 小林由美
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2006/09/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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簡単にいうと、まず90年代以降のアメリカ社会では「中産階級」が消滅に向かっており、エリートビジネスマンと貧困層に二極分化してきているという話*1から始まって、アメリカで「富の偏在」が作り出された経緯を確かめるべく過去400年間(笑)ぐらいのアメリカの政治・経済史を辿ることになる。で、アメリカの経済政策というものが、エリート階級と政府が結託してカネ持ち優遇の方向へと誘導してきたものであって、決して「自由競争」の結果として富の偏在が生まれているのではないことを明らかにするわけです。
その他、アメリカの教育の歴史と現状が報告されたり、次々と新しいビジネスを生み出すシリコンバレーの独特のソーシャルネットワーキングの文化が紹介されたり、「経済的価値」と「市場主義」に憑かれたアメリカ人の異常な国民性が、愛憎相半ばする筆致で描かれたりしている。
具体的な事実がひたすら並べてある本だから、要約で紹介するのは非常に難しくて、「この本の趣旨は?」と聞かれると困る(笑)。しかし報告されている事実がいちいち面白くて、色んなとこで使えそうなネタが満載されてる。
(『超・格差社会アメリカの真実』と銘打たれてはいるが、「アメリカの貧困層の苦しみや、酷薄な市場競争の非人道性を訴える本」とはイメージしないほうがいい。本書の射程範囲はもっと広い。)
で、同じく女性の書き手によるアメリカ経済に関するルポといえば、バーバラ・エーレンライクの『捨てられるホワイトカラー──格差社会アメリカで仕事を探すということ』(原題は『Bait and switch』=おとり商法)もけっこう面白かった。
この人の著作では『ニッケル・アンド・ダイムド──アメリカ下流社会の現実』のほうが有名だけど、まだ読んでない。
捨てられるホワイトカラー―格差社会アメリカで仕事を探すということ
- 作者: バーバラエーレンライク,Barbara Ehrenreich,曽田和子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2007/09
- メディア: 単行本
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- 作者: B.エーレンライク,曽田和子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2006/07/28
- メディア: 単行本
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『捨てられるホワイトカラー』は、アメリカのホワイトカラー雇用の厳しさについてのレポートで、著者自身が実際にアメリカの転職市場に潜り込んで就活してみるというものだ。高学歴の中流ホワイトカラーの首切りが盛んに行われるようになってきて、中産階級の二極化が進んでいる。それで、転職ビジネスも発達しているわけである。
転職コンサルはまず、「あなたの経験と能力を存分に生かせる職場探しをサポートします!」なんて調子で就活中の中年男女から多額のカネをむしりとる。「大切なのはネットワーキングなんです」とか言って、企業の採用担当者や転職活動仲間の知り合いを増やすために、いろんなセミナーとか昼食会に参加させてカネをとるわけ。で、いつまで経っても就職できなかった場合は、「とにかく変わらなければなりません。あなたの敵は、あなた自身なのです!」とか言って、日本でいえば自己啓発セミナーの常套的な煽り方(心理学的にはけっこう洗練されている)を使って、さらにカネを引き出していく……。
この本を読んでて一番面白いと思ったのは、著者が数ヶ月にわたって転職活動を体験してみたあとで、アドバイスを受けていた転職コンサルタントの男と下記のような会話をする場面。
私は何カ月も前から気になっていたことを聞いてみようと思った。インターネットを使えば、就職志願者のスキルと会社のニーズをただ結びつけるだけで、就職活動は完全に合理化できるはずなのに、いまだに昔ながらの顔と顔を合わせるネットワーキングに頼っているように見えるのはなぜなのか。だって、いずれ面接をするわけでしょ?
「まあ、信頼の問題でね」。ロン(※コンサル)の答えは曖昧だった。そのうえ「好感を持たれる」などという言葉までが飛び出した。「エグゼクティブもそうだが、物ごとは上に行けば行くほど、好ましいかどうかで決まることが多くなってくるから。相手に好感を持たれることが肝心なんだ」
著者はまったく論じてないのだが、この論点は、人間関係づくりに「IT」が与えた影響の一つの本質を突いているように思われる。IT化によって、たしかに人間関係づくりはある意味で合理化したのかも知れないが、「顔の見えない」人間関係の発達は、人間関係における「不安」や「不信」を高めてしまう。これは恐らく動物としての本能的な問題だ。で、その不安心理につけ込んで、リアルの人間関係を仲介する転職コンサルみたいな職業が発達するわけだ。ちがうかな?
もちろん、転職ビジネスが発達する一番の原因は、会社をクビになったり自分から辞めたりする人が増えたってことだろうけど、そういう面もあるんじゃないかなと。