はてなブックマークで「労働基準監督署」を含むエントリを検索していたら、ある労働政策研究者のブログにたどりついた。で、驚いたことに(本当に驚いた)、そのブログで最近、西部先生の文章が2回も取り上げられていた。
■ EU労働法政策雑記帳 (http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/)
珍しいこともあるもんだ(笑)。
しかし「経済セミナー」時代の論文まで引っ張り出して来るとは……*1。ファンなのだろうか。
ところで、上記ブログの「正論」のほうの記事の中で、「それこそかつてグランドキャニオンに柵がないと偉そうに宣っていた小沢一郎氏に……」というくだりがあるが、これは、小沢一郎の著書『日本改造計画』の前書きの話だ。
アメリカのグランドキャニオンでは、一歩踏み外したら転落して即死するような危険な場所にも、柵を設けていないらしい。それを見て感激した小沢が、「アメリカでは、自分の安全は自分の責任で守っているわけである」(同書p.2)として、「自己責任の原則」を称えているのがこの本だ。で、日本社会では「自己責任の原則」が貫かれていないから、政治も「三流」なのだという。
今回の小沢・民主党の選挙スローガンは「生活第一」だった。最大のきっかけはもちろん「年金記録」問題だ。また、どこまで真に受けるべきかはともかくとして、日本社会でも「格差」が広がってきて「新自由主義(ネオリベラリズム)」的な――つまり「自由放任」を旨とする「市場原理主義」的な――構造改革には反対だ!という声が大きくなってきたから、その声に迎合したという面もあるんだろう、たぶん。
民主党の「政策リスト300」や「マニフェスト」を、こないだの参院選で民主党に投票した有権者の何割が読んでいるのか知らないが、とにかく、中学生以下のすべての子供(がいる家庭)に毎月1人あたり2万6000円ずつ配るとかいう、ほとんどキチガイ沙汰のバラ撒き政策をはじめとして、すべての農家に戸別所得保障を与えるなど、基本的に「社会保障政策を充実させましょう」という路線だったわけです*2。
で、小沢一郎がもともとそんな路線とは正反対の政治思想の持ち主だということを、有権者は覚えていたのだろうか??
「自由主義社会では基本的に自由放任であるべき」(p.244)だから、「規制の撤廃」(p.5)を進めて、「国民を保育器から解放」(p.187)して「個人に自己責任の自覚を求める」(p.5)ことが必要で、そのために「政治のリーダーシップを確立」(p.4)しようというのが、『日本改造計画』の趣旨だったのだ。*3
というか、何もこの本を引っ張り出さなくても、小沢一郎が「市場の自由」を重んじる政治家だというのはよく知られた話だし、所得税・住民税を半分にして、なぜか法人税も「世界最低水準」まで引き下げたうえで、消費税を10%に引き上げろと言っていたのも有名な話だ(同書pp.214-215)。所得税や法人税を減らして消費税を増やすというのは、ふつうに「カネ持ち優遇」の(逆進的な)政策だ。ちなみに小沢はこの本で、消費税の「逆進性」の問題についてはとくに触れていなかったはず*4。
その小沢が、いきなり「生活第一」とか言い出したわけです。消費税を上げるのにも反対だ、と。
政治評論家の三宅久之がテレビで「小沢さんはもともと原理主義者なんだけど、今回は自分の信念を隠して、選挙に勝つことに徹した。彼は本気で首相になる気はない」と言っていたが、まさにそういうことなんだろう。「生活第一」なんていうのはウソなのだ。
いや、もちろん本当に「生活第一」という考え方に転向したのかも知れないが、根本的に政治信条を変えたのなら、その理由をきちんと説明するのが筋だろう。ちょっとした意見の修正というレベルではないしな。
いずれにしても、ぜんぜん信用できる男ではないわけです。
- 作者: 西部邁
- 出版社/メーカー: イプシロン出版企画
- 発売日: 2006/03
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (4件) を見る
- 作者: 西部邁
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2002/04
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
- 作者: 小沢一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/05/21
- メディア: ハードカバー
- 購入: 6人 クリック: 143回
- この商品を含むブログ (54件) を見る