The Midnight Seminar

読書感想や雑記です。近い内容の記事を他のWeb媒体や雑誌で書いてる場合があります。このブログは単なるメモなので内容に責任は持ちません。

山田風太郎『あと千回の晩飯』


主に老後論と食事論。
一番面白かったのは197頁からの「少年時代の映画」というエッセイで、これは後で覚えていたらコピーしておこう。
小津安次郎、夏目漱石などの食事の記録も紹介されていて面白い。

「それに白内障も悪いことばかりではない。眼は、風景を見るにはよく見えるほうがいいが、人類を見るには、少しかすんでいたほうがいいようだ。」(p.25)


「それにしてもである。酒聖というか酒狂というか、また若山牧水の話になるが、妻の歌人喜志子は日記に書いている。『牧水はついに(九月十七日)午前七時五十八分不帰の客となる。静かなる臨終なりし』
また死後三日で主治医も記している。
『滅後三日ヲ経過シ、而モ当日ノ如キハ強烈ナル残暑ニモ係ラズ、殆ンド何等ノ屍臭ナク、又顔面ノ何処ニモ一ノ死斑サヘ発現シ居ラザリキ。(斯ル現象ハ内部ヨリノアルコホルノ浸潤ニ因ルモノカ)』
万病いれでもラクではない死に方の中に、これならアル中による死も悪くないといわねばならぬ。」(p.40)


「私に『あの世』への親近感などない。それはないが、『この世』への違和感ならある。」(p.43)


「七十を越えて意外だったのは、寂寥とか憂鬱とかを感ぜず、むしろ心身ともに軽やかな風に吹かれているような感じになったことだ。」(p.72)


「そもそも私は、山海の珍味を牛飲馬食するような人間でなければ大事を託することはできない、と信じている。」(p.95)