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The Midnight Seminar

読書感想や雑記です。このブログの裏で始めた統計&プログラミングのブログのほうがアクセスが伸びてしまい、こっちが裏みたいになってます。

ブルトン『シュルレアリスム宣言』


 いま日本の若者が「シュールな発想だなぁ」とか言うときの「シュール」は、「シュルレアリスム」(超現実主義)を略したものである。この、20世紀はじめの芸術運動である「シュルレアリスム」とは何なのかが知りたければ、ネットで調べた後にとりあえず本書を読んでみればいい。
 以下に説明するように「シュルレアリスム宣言」の内容は非常に簡単で、著者ブルトンの言いたいこと、やりたいことが全く理解できないという人は稀だろう。分量的にも薄い本なので、読むことを止めはしない。……しかし、やはりこれは吐き気を催させる本だと思う。


 「シュルレアリスム宣言」は80年前のヨーロッパ文学界を批評している文章なのだが、これはもともと「溶ける魚」の序文として書かれたものらしい。「溶ける魚」というのは、ブルトンが「シュルレアリスム」を実践して書いた短編小説のような散文詩のようなものを、32点まとめた作品集である。
 この「溶ける魚」は「自動記述」という方法で書かれている。「自動記述」というのはじつに子供じみた遊びのようなもので、まず筆記用具を用意していったん頭の中を空っぽにし、意識の上では何も考えずに、自ずから心に浮かび上がってくる言葉を、反省が追いつかないような速さでひたすら書き留めていくのである。紙に字を書きまくっているあいだ、何も考えてはいけない。これによって、「夢」のような「不可思議」なイメージが生まれるというわけだ。


 この「不可思議」を礼賛すること、それが「シュルレアリスム」の全てである。「きっぱりいいきろう、不可思議はつねに美しい、どのような不可思議も美しい、それどころか不可思議のほかに美しいものはない」(p.26)ということだ。「高度な気ままさを示している……実用的な言語に翻訳するのにもっとも時間のかかるイメージ」(p.68)が生み出されればそれで良いのであって、まとまりを持った意味や物語は必要ないらしい。「リアリティ(現実性)」などもってのほかだ。


 「溶ける魚」のなかのいくつかの作品を読んでみると──とても全部読む気にはならない──、たしかに不可思議で妖艶なイメージが喚起されるといえばされる。しかし、ふつうの人間なら、やはり「意味」や「現実性」をまったく伴わないイメージになど強く惹かれることはないのではないか。
 ダリの絵画にしてもそうなのだが、こんなものを有り難がっていられるのは、よほど強力な「現実主義(リアリズム)」の軛に縛られた境遇にある場合か、せいぜい少年時代の気まぐれの中でだけであろう。
 ブルトン自身が、「『真の人生』にいちばん近いものは、たぶん幼年時代である」(p.72)と言っている。そう、要するに「シュルレアリスム」というのは子供の遊びなのである。子供の遊びが面白いことは大いに認めるが、それを「主義」として「宣言」するというのはやはり大人のすべきことではないと思う。
 文庫本の表紙に「『シュルレアリスム宣言』こそは20世紀の芸術・思想の出発点である」とあるが、もしそうだとすれば、20世紀というのはじつにくだらない世紀だったということだ。


 ……さて、いま試みに私も精神を統一して「自動記述」を実践してみたら、以下のようなシュールな作品が生み出された。不可思議はつねに美しい!


 「いっさいの読み流される子供たちよ。私たちは泳ぐのだ、足をまげて泳ぐのである。生粋の神社は五穀のはたらきで、水の中へ飛び込んでいき、目の前の現実にくさびを打ちこむのである。しかし我々は生きながらえて、子供たちのところへありがとうと言わないで、どこまでもどこまでも歩いていくのである。ちなみに今日から50歳の誕生日を迎えて死んでしまう人たちを、私は恐ろしく寝かせていたいのだが、しかし忘れられた人々のことを考えれば、私は宇宙へも行きたくなる。」(一回目)


 「おお、我々の愛の力を投げかける大王の里へ、ようこそみなさん。我々がいちばん信じている私たちの神よ、信じてくれ。さとし君、君へようこそ。桜の木の眠りのなかで、私は信じていくのか、君はなにをしているのか、我々が現実に属することを知っているわけではなかろうに、しかし自分で死んでしまった男たちよ。自らの軽率さに吐き気がしないか? 僕は言うぜ、まったく碌でなしのおもちゃと博士をきらびやかに抱いて、碌でもないところへ抱いていくのである。しかし我々よ、神のお供よ、昔から我々の頭には、一切の気付きがあったのではないか? さっそく前へ出てみよう。すぐれた我々は、しんどいかもしれないが、行くのである。すがさん。」(二回目)
 

 ──すがさんって誰だよ(笑)。さとしという知り合いなら居るが。