- 作者: 門倉貴史
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/06
- メディア: 新書
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少し前に話題になった「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入の目的のひとつは、国際的に低いとされる日本のホワイトカラー(事務系職員)の労働生産性を上昇させることにあったらしい。
従業員数1000人以上の大企業の場合、2006年度における部長職の月給は平均68万2000円、課長で52万9000円、係長で40万1000円だそうだ。そして大卒新入社員の月給は、平均21万5000円らしい。これはちょっと貰いすぎなのではないか?ということだ。
本書の趣旨は、まず日本のホワイトカラーの生産性は言われているほど低くないということ。そして、有能な職員が(無能な職員と大して変わらない給料で)過大な仕事を引き受けている場合は多いので、有能な人が行きたい会社、行きたい部署に簡単に移動できるように雇用をもっと流動化したうえで、ホワイトカラー・エグゼンプションを導入すべきだということである。
ちなみに「ホワイトカラー・エグゼンプション」とは、たとえば企画・営業系の仕事の場合、個人の能力差が大きくて仕事の成果が労働時間に比例しないため、純粋に「成果」に比例した給与制度を導入してモチベーションを高めましょうという制度だ。その結果ホワイトカラーは、「残業代」などはもらえなくなるわけである。ただし、平凡以下の成果しか挙げられない人も多いし、そういう人たちの給料も最低限は保障しなければならない。だから「ホワイトカラー・エグゼンプション」は、年収がある程度以上のエリートサラリーマンに限って適用しましょうという話になっている。
本書をパラパラとめくっていたら、「筆者は現在の日本において、マルクスの『労働価値論』が当てはまるような気がしてならない。/筆者はマルクス経済学を支持するものではないが、現在の日本では、マルクス経済学で説明がつくような事象が現実に起こっている」(p.89)という文章が眼にとまって、私もいまマルクスの『資本論』を少しずつ読み直したりしているから、期待して読んでみたわけ。ところが本書、前半から説得力が無さすぎて何の参考にもならないし、結論も出ていない。
そもそもマルクス経済学の理解自体が怪しいし、統計をたくさん引用している割に肝心なところは憶測が多いし、「生産性が最近改善されたのは小泉構造改革のおかげだ」とか、「これからはホワイトカラーの中でも所得が二極分化していくので、今から自己投資して自分を磨いておけ」といった主張はあまりにも短絡的だ。
ただ、「労働」をめぐる色々なデータが紹介されているので、著者の主張の文脈とは無関係に、豆知識的に拾っていく分にはいいかも知れない。
従業員数1000人以上の大企業の社員の給与は、100人未満の中小企業の社員の1.6倍らしい。(p.162)
ワールド、ユニクロ、NTTマーケティングアクト、ユナイテッドアローズなどの企業は、最近、長期的に優秀な人材を確保していくために、非正社員の正社員化を大幅に進めているらしい。(p.165)
「グローバル化によって自国の伝統文化が脅かされるのではないか」と感じている人の割合は、タイ(64%)、オーストリア(62%)、フィンランド(57%)、ノルウェー(57%)、スイス(57%)、ハンガリー(55%)、アルゼンチン(53%)の順らしい。(p.177)
……等々。
まあ特に読む必要のある本ではないと思う。