The Midnight Seminar

読書感想や雑記です。近い内容の記事を他のWeb媒体や雑誌で書いてる場合があります。このブログは単なるメモなので内容に責任は持ちません。

キルケゴール『不安の概念』


 『不安の概念』はすごい本でした。驚いたことに、岩波文庫が重版されていて、いま友朋堂とかに行けばふつうに新品が買えます。俺は20年前のやつを古本で買ったのに……。

○ そのかわりに私は、不安を抱くことを覚えるというこのことは、誰もがやりとげねばならぬところの冒険である、ということを言っておきたい。何故ならそれでなければ、彼は一度も不安を抱いたことがないということによってか乃至は不安のなかでくずおれるということによってかして、滅んでしまうからである。これに反して不安を正しく抱くことを学んだ者は、最高のことを学んだのである。


○ 我々は同情をもたねばならない、しかし同情というものは、一人の人におこったことは万人におこりうるものであることを本当に心の底から我々が認めた場合に始めて真実なのである。その場合に始めてひとは自己自身に対しても他人に対しても益あるものとなりうる。


○ もし誰かが或る人間について、彼は策略にたけた男だから外交官か刑事になったらよかろうとか、また別の人間について、彼は喜劇的なことを模倣する才をもっているから俳優になったらよかろうとか、さらにまた第三の人間について、彼には全然なんの才能もないから長官の釜焚きにでも傭ってもらったらよかろうとか、という風に語るとしたら、それは人生に関するまことに無意味な考察である、──否、いっそう適切には、それは全然なんらの考察でもない、なぜならそれは単に自然に起こることを語っているにすぎないからである。ところで、私の宗教的存在が私の外的存在にいかに関係しそのなかでいかに表現せられるかということを解明することこそが、問題なのである。だが我々の時代に誰がそのような事柄に関して沈思するの労をあえてとるものがあろうか!