The Midnight Seminar

読書感想や雑記です。近い内容の記事を他のWeb媒体や雑誌で書いてる場合があります。このブログは単なるメモなので内容に責任は持ちません。

11年前に聞いた、おでん屋のじいさんの話

 2006年の冬だったと思うが、夜中につくば市の408号線を車で走っていたら、道路脇の駐車場というか空き地のようなところにおでん屋の屋台があるのをみつけたので、友人と3人ぐらいで入ってしばらくおでんを食いながら店のじいさんと雑談しした。
 ある程度広さのある敷地で営業していたので、トラックの横にテーブルとテントが出してあって、たぶん6人ぐらいは座れるスペースになっていたと思う。その後たぶん、近くの深夜営業してる喫茶店で何かの相談をして帰ったと思う。
 そのときの屋台のじいさんの話をメモした紙がでてきた。当時日記を書いていたので、忘れないように喫茶店で紙にメモしたんだろうと思う。
 けっこう面白いじいさんで、もう一度会いたいと思うが、もう死んでるかもしれない。


 以下その時のメモ。

  • 今年の7月1日からこの場所で屋台をやっている。今74歳。
  • 昨年12月に、ばあさんを亡くした。ばあさんは5人目の妻で、26年間連れ添った。
  • 最近、もう少し生きるか、それとも死ぬかと考えているところ。なんか生きてても仕方ないしなぁ。ばあさんも死んだし。
  • 大変な人生だったが、悔いは全くないな。でもなぁ、ちょっとは悔いのある人生のほうが良かったな(笑)

 

  • 昔、浮気をしてお姉ちゃんの家に泊まって朝風呂に入った。俺は百姓だったから、朝風呂なんか入ったことなかったんだけど。それで涼もうと思って表に出たら、妻が立っていた。その後、家に帰ってみると誰もいなかった。子どもたちを連れて実家に帰ったようだった。

 

  • 俺はこのへんの百姓の家に生まれたんだが、18歳のとき初恋にやぶれたのが嫌になって家を飛び出して、伊豆まで行って就職した。
  • そこで三島市役所の総務課長の娘でシズヨさんという女性と親しくなった。2つぐらい年上だったんだが、後から解釈するとあれは俺のことが好きだったんだと思う。でも俺は18で子供だったから、自分の姉ちゃんぐらいにしか思ってなくて気づかなかったんだよなぁ。
  • そのうち俺は実家に戻ることになっちゃって、伊豆を離れる前日に、シズヨさんから呼び出されたんだよ。川のせせらぎが聞こえるきれいな所だったな。それでも俺、気づかなかったんだな。「なんで今日に限ってこの人は怒ってるのかな?」なんて思っていた。
  • その人とは、俺が実家に戻ったあと、何回か手紙のやり取りをした。今で言えばラブレターか?ラブレターのやり取りをしたな。
  • それから何年もして、妻と一緒にシズヨさんのところを訪ねたことがあるんだよ。それでわかったんだが、あの時その村で、俺とシズヨさんが妙な仲になっているって話が広がったらしい。やましい関係はなかったんだけど。それで、市役所の総務課長の娘だから、これが問題になって会社が仕事をもらえなくなったら困るからということで、俺は実家に帰されたらしい。

 

  • 娘が高校を出てからすぐ就職したんだが、1年ぐらい経った頃のある日、いつまでも家に帰ってこねえんだよ。それ以来、18年間音信不通。まぁたいがい、別居してた本妻のところに居るんだろうと思ったけどね。それで娘も30何歳になって、俺にあるとき電話がかかってきてさ、「悪いことをしました。謝罪に行ってもいいですか?」って言うから、まぁいいよと。今、50歳になる娘なんだけど。あんたらも親は大事にしろよ。親を思う子は無し、子を思わぬ親は無しって言うけど……。

 

  • 俺、こんなボーっとした顔してるけどね、神社仏閣が好きなんだよ。鹿島神宮は国宝だね、あれは。俺も鹿島様の信者なんだけど。ただ困るのは、鹿島様は武運の神様なんだけど、商売繁盛とかそういうのを一切認めてくれないわけ。俺の商売どうすりゃいいんだよ。今日もお参りしてきたけど、そのおかげで全然客が入らねぇよ。あんたがたで今日、まだ5人目だからな。

 

  • こないだ、そこの近くの病院に見舞いに行ってきたけど、ひどいね!老人がみんな、こんなになって、もう人間じゃないような生き物がいっぱい居るんだよ。ありゃダメだね。
  • 瀬戸内寂聴の死生観には賛成だ。人間、自分で自分のことをできなくなったら、自分で死ぬべき。安楽死はOKにすべきだ。

 

  • 群馬に赤城山の見えるいい温泉があって、いっぺん行ってみたいんだよなぁ。でも俺の彼女も死んじゃってな(笑)。やっぱり1人で行っても思い出にならないからなぁ。