The Midnight Seminar

読書感想や雑記です。近い内容の記事を他のWeb媒体や雑誌で書いてる場合があります。このブログは単なるメモなので内容に責任は持ちません。

ハルマゲドンの話(ウクライナ問題など)

 チャンネル桜は3年に1度ぐらいしかみないんですが、たまたまYouTubeに上がってた動画がTwitterで流れてきたのでみました。(↓のリンクは3本続きの動画の2本目。全部はみてないです。)



2/3【討論!】安倍政権への進言・諫言・提言 - YouTube


 以下、馬渕睦夫氏(元駐ウクライナ兼モルドバ大使)と西部邁氏(評論家)の会話。

馬渕 結局今のウクライナ危機といいますかね、ロシアをどうみるかというところが、今後の安倍外交のひとつの正念場のひとつだと思うんですけど。
 ちょっと申し上げましたように、アメリカの対ロシアの態度、プーチン大統領に対する態度というのは、「プーチンを失脚させる」というのが私はアメリカの隠されたね、表向きは言ってませんけどたぶん隠された狙いなんだろうと。
 なんで私がそう判断したかというと、このウクライナ危機が、まぁクリミア以降ですけど、起こって以来のアメリカの対応が、非常に従来とはちがうと。とにかく「プーチンとは話さない」と言うことですね。
 だからG8からも追い出して、とにかく経済制裁をまずやったわけです。普通は、アメリカはこういうことは本来やらないはずですね。その前に当然、プーチンと話し合う。それで妥協点を探るというのが今までのやり方。今回はそれを一切やってない。他の国にもやらせないということですよ。
 だからこれは、残念ながら、アメリカはもうこの際、プーチンを失脚させると。つまりロシアを、つまりなんていいますかね、プーチンが抵抗しているグローバル化を……ロシアをグローバル経済に取り込むという。アメリカはいよいよその最後の賭けに出たんだろうと私は思ってます。
 それは逆にいえば、アメリカがそれだけいま追い詰められているということですね。アメリカの、ハッキリいえば金融資本家が、やっぱりリーマンショック以来うまくいっていないと。だから、これでロシアを自分に取り込まないと、なかなか生き延びられないと。そういうやっぱり危機案があったんだと思います。これはべつに脅かしでもなんでもなくてですね、すでにアメリカのたとえばブレジンスキーなんかもそうなんですが、そういう事態が来ることを想定してるんですね。
 それは彼の本を読んでみればよく分かるんですけども、要するに「オバマが世界のグローバル化に失敗したら、もうチャンスは無い」って言ってるわけですね。つまりチャンスはないということはどういうことかっていうと、つまり平常なやりかたで、ソフトパワーで世界をグローバル市場化するのは、もうオバマの時までだと。で、オバマがもう失敗してるのはハッキリしてるわけですね。だからもうあとは、そういう意味では、私は時々使ってるんですが「ハルマゲドン以外にはない」と。つまりは、言ってみれば、第三次世界大戦級の大軍事紛争しかないということを、もうすでにブレジンスキーはもう今から数年前に予告してるんですね
 だからそういう事態が、どうもいま来てると。来てる可能性があると。ただストレートに、米ロが直接軍事対決するところまでは、まだ時間があると思いますけどね。ですからそこに、安倍さんが割って入る最後のチャンスがあるんだろうと。
 それで、今年の11月ですね、たしか10日前後に北京でAPECの首脳会議が行われて、たぶんプーチンは来るということになるんでしょうけど、おそらくその前後に訪日をするというのが一番自然な形でプーチンを迎えることになると思うんですね。だから、プーチンの訪日をめぐってこれからアメリカと日本との間で、水面下で相当の駆け引きがあるんでしょうけどね。これがやっぱり、日本が来年乗り切れるかどうかの、大きな分水嶺になるだろうと私は思っておりますし、その際、アメリカの対ロシアに対する意図っていうのを正確に見抜いてですね、なんて言いますかね、ロシアをグローバル市場に取り込むことのメリット……急いで取り込むことのメリット・デメリットをね、安倍さんはアメリカに、そこをいかにうまく説明できるかどうかというところにかかってると思いますね。
 だから今、プーチンはじめ、まぁプーチンがまさにそうなんですが、外資に対して、欧米の、とくにアメリカの外資に対して非常に懐疑的なんですね。それはロシアの過去のいわゆる民営化プロセス、市場化プロセスをみてれば分かるんで。非常に懐疑的で、つまり(アメリカ資本がロシア国営企業を)乗っ取ろうとかつてしたわですね。それをプーチンが押さえたっていう経緯があって、それが有名な2003年のホドロコフスキー事件(参考リンク)と言われるものですね。で、彼がいよいよ恩赦で、いまもう釈放されて来ますからね。それとまさに今起こってることとは、私は関連があるんじゃないかとすら思いたいんですね
 だからそういうところまで今、ロシアの関係が来てるんで。そこにその、安倍さんが「ロシアを追い詰めることがアメリカにとってもメリットではないんだ」ということをね、説得できるかどうかだと。ここにかかってるんだと思うんですね。ですから、安倍さんこそが、私は世界をね、ちょっと極論すれば、ハルマゲドンから救える人なんじゃないかとすら思えますよ。


西部 ここでちょっと質問なんですがね。休憩時間にちょっと言ったことなんですが。
 おっしゃる通りのようなイメージで僕も世界をみてるんですけども、でもイラクの失敗とかアフガン……アメリカ国民が、議員を通じてですけどもそこからの撤兵をね、結局のところ国民が要求せざるを得なくなって、それをオバマが代表してやったということを考えるとですね、ロシアとのハルマゲドン……もちろんそれを考えるのがCIAかペンタゴンかね、あるいはユダヤ系資本家でしょうけども、その彼らがそういう机上のプログラムを組むんでしょうが、国力の衰退がいろんな意味で甚だしいアメリカがですね、それを1年、2年はできてもですよ、たとえば3年後には自分でひっくり返る。でもそういうところまでは考えない、1つのハルマゲドン計画を作ってるに過ぎないんだと。
 もっと極論するとね、アメリカってのはもうある意味では国家の体をなしてなくてね。あそこを動かしてるのはほとんどマフィアというかヤクザというかね。表現はいろいろありますけども、ほんとに一握りの巨大な財産と巨大な権力をもった人間たちの、ほんと、つかの間のイリュージョンに近いようなそういうハルマゲドン計画。で、結局のところ、アメリカの政治家たちも一時それに乗っかる以外に自分の人気を集められないという。
 それはそれなりに世界を壊すんでしょうけども、一つだけその壊すことについて言えばね、キャピタリストというけど、グローバルキャピタルというけど実際に彼らはね、中国の例を見ようがインドの例を見ようが、ロシアにかつて典型をみたごとくね、結局のところ国民経済を破壊していくわけですよね。あっという間に。


真渕 おっしゃるとおりです。


西部 そういうことを考えたらですよ、いま必要なのは各国が、時間がかかるだろうけどもそれこそナショナルエコノミーとしてね、日本もそうですが、それを再建しなきゃいけないんだけども、それをぶっ壊していくのがアメリカだってことは、世界はだいたい薄々か強いかどうかは国によって温度差があるんだけども、だいたい世界で明らかになってるんですね
 というふうに僕は思うんですよ。もちろんね、日米関係は戦後70年近くも続いてますから、それに僕もね、そう簡単に反旗を掲げられるとは思ってないけども、それから自民党もそれはできない、役人もメディアもできないとしてもね、日本の言論の中に強力な一部として、強力な発言として、アメリカは所詮その程度の国に成り下がったんだってことをね、もっとね、明々白々に言う言論がなきゃですよ、その……


馬渕 いまおっしゃった通りだと私はおもうんです。まさに我々はアメリカの正体を見極めずに議論してて、アメリカを国家だと思って議論してきたんですが、そうじゃないと。アメリカっていうのは今おっしゃったように、私は、一番いまだに力をもってるのはウォールストリートの金融・財閥だと思いますけどね、それがいわゆる軍産複合体のようなかたちで。
 それで、重要なテーマは今おっしゃったように、アメリカは今はもう国民経済なんて考えてないんですよ。そこなんですよね。だからなぜアメリカが、アメリカの一般国民の利益を無視してまでああいう世界戦略をとってるか、そこをやっぱりね、ハッキリさせないといけない。
 日本のメディアは一切口をつぐんでるわけです。アメリカは国家として動いてると思ってるわけですね。そうすると、なぜ中国と仲良くしてるのかが全く分からないわけですね。あるいはなぜロシアをやっつけようとしてるのかが分からないわけですね。ですから、おっしゃったように今アメリカを動かしてるのは、そういう一握りのエリート集団であるということをね、もう少しわれわれは理解して、対米外交なり、対ロシア外交をやってく必要があるんだと。全く同感です。そう思います。


 先週「表現者塾」に久々に参加しましたが、最後のほうで西部先生が、
 
 
 「アメリカを支配してる連中は、完全なニヒリズムに陥っていて、カネと権力のために本気で戦争を仕掛けかねない。イラクの失敗でネオコンの連中が死んだと思ったら大間違いで、おおよそ帝国主義戦争というものはだいたいそうなんだけど、ああいうニヒリストどもは本気で『ハルマゲドン』のような馬鹿なことを考えかねないんだ」


 という話をされていたのは、この文脈だったんですね。


 なんというか、たいていの人は「けっきょくのところアメリカがそんな不合理な(国益にならない)判断をするはずがない。ハルマゲドンなんて有り得ない」と一蹴すると思うんですが(そうであれば良いと私も願いますが)、第一次・第二次世界大戦でもいいし、もっと昔の戦争でもいいけど、人類はぜんぜん合理的に行動してないからなぁ(笑)
 歴史を振り返れば、けっこう、予想もしない方向に一気に進んでいくことがあるわけです。
 イラク戦争だって、いまでこそみんな「大量破壊兵器なんてなかったのに〜」「アメリカの失態が〜」とかしたり顔で言ってるけど、当時ニュースをみてたときはあれがそれなりにアメリカにとって(邪悪だけど)合理的な行動だと思ってた人多かったと思うんですよね。
 イラク戦争に反対する人にとっても賛成する人にとっても、とにかくアメリカ最強というのが支配的なイメージだった。「平和主義」「戦争反対」の観点からアメリカを批判してた人はいたけど、それも結局「強いアメリカの横暴」を批判していただけであって、「馬鹿になって転落していくアメリカ」のイメージを読み取った人はあまりいないはず。
 「アメリカが衰退していて転落しつつあるなら、ロシアに戦争しかけるとかあり得ないのでは?」と思われるかも知れないし、そうだと良いのですが、じつは逆かもしれない。上の動画で言われているのは、転落しかかっているからこそ一種の暴発が起き得るという話ですね。
 私は不勉強なので、今回のケースについてどう見通すのが正しいのかまったく分かりませんが、一般論として言えば、会社とかでも経営危機になると、内部の意思決定手続きも形骸化して、過激なグループが主導してわけの分からない決定をし、一気に倒産に至るというケースはふつうにあるわけですよね。「もうチャンスがない」からこそ、変な一発逆転の賭けに出て、結局はご臨終に至るわけです。賭けによる害悪をまき散らしながら。
 とにかく、イラク戦争が始まったときに「大国が不合理な判断をすることもある」という歴史を振り返り、「ああ、これはアメリカ衰退の引き金の一つになるな」って予想した人はあまりいなかったという事実を思い出したほうがいいと思います。ちなみに西部先生はじめ『発言者』のグループはそういうことを言ってたんだけど*1。今回も我々の多数派のイメージとは無関係に、ヤバいこともあり得そうだなぐらいに思っといたほうがいいのかも知れません。

*1:ついでにいうと、「今回はイラク側に正義がある」と堂々と言った人もあまりいないと思う。