こないだ深夜バスで大阪から東京まで移動する必要があって、やることがなくて暇だったので、籠池氏の証人喚問(計4時間ぐらい)を全部見た。それまであまり森友関係のニュースは追いかけていなかったのだが、あのおっさんが喋っているのを4時間も聴いていると人物像のイメージがつかめてきたし、質問者によっては論点をそれなりに整理してしゃべっていたので、ある程度理解が進んできた。
しかし肝心なことはよく分からないというか、証人喚問でやり取りされている論点がどうでも良いことばかりのような気がして、国会と世間の騒ぎ方の方向性が変なのではと思うに至った。それであれこれ検索して記事を読んでいると頭が混乱してきたので、今の時点での理解をメモしておくことにする。時系列が分からなくなりがちなので、下の方に年表もまとめておいた。
主に自分の頭の整理のために書いているものであり、正しさは保証しない。あと、ダラダラと書いてるので読みやすいかは微妙である。
【追記】このエントリは執筆時点の報道から把握できた情報のみに基づいて書いているのでご注意ください。今後も色々新たな事実が判明するんでしょうけど、2017年4月以降は大して関心を持てなかったので、間違いがあってもとくに内容のアップデートはしないつもりです。
何の問題なのか
証人喚問の映像を見ていると、要するに与党は籠池氏を批判して「このおっさんは嘘つきで頭がおかしい」という話にしたがっており、野党は「籠池氏と安倍夫妻や稲田大臣は仲良しである」という話にしたがっていることが分かる。
さてそれでは、籠池氏と仲良しだったら何がいけないのかということなのだが、これは大きく分けると2つある。
1つは、籠池氏の教育理念が右翼的で偏向しているという話で、それに共感しているということは安倍総理も右翼的偏向を持っているということになる。また、右翼的偏向は単なる好みの問題だとしても、森友学園は保護者や子供に対して、パワハラ・差別・虐待めいた対応をしてきた経緯があるとされており、そんなところに加担するのはいかがなものかという問題もある。
もう1つは、籠池氏が学校の用地を取得したり学校開設の認可を取りに行くにあたって、不当な利益を得ており、安倍首相らが仲良しということは、それを政治的圧力によってサポートしているのではという話である。不当な利益とされているのは主だったところでは、「9億いくらと評価された土地を1億いくらで買い取ることができた」件と、「財務状況の不安等から学校設置認可は得られそうになかったのが、意外とすんなり、条件付き認可適当の答申を出してもらえた」件である。
他にも、たとえば「森友学園にとって有利になるような学校設置基準の緩和が行われた」という話があるが、規制緩和自体は合法に決定されたものであるので、籠池氏の陳情がいくら織り込まれていようが、ひとまずスキャンダル性は低いと思うことにしよう。
また、「2015年に見つかった有害物質の撤去費用1億3000万円強を、2016年度予算で措置して国が払ってくれた」件もあるのだが、この件は籠池氏の証言では、「そんなの国の瑕疵なのだから払うのは当たり前の話で、むしろ待たされて、工事が遅れて迷惑だったのを許してやったのだ」という話になっている。これは、森友学園が先に廃棄物を撤去してから事後請求しているものであり、「金額は森友学園の言い値でいいのだろうか」という疑問はあるが、もともと国が払うべきであったという理屈は立つ。政治家の口利きによって通常ありえない対応が実現したとかいうものではないだろう。*1
まとめると、
という4点ぐらいの問題が存在して、これらをつなげて「安倍首相は森友学園の変な教育方針に共感しているのだから、不法な便宜を図ってもいるに違いない」というストーリーで政権叩きに使われているわけである。
「8億円値引き」の件がクローズアップされてきたので、「教育方針の問題」を先に書くまとめ方は順番がおかしいと思われるかもしれない。べつに重要度の順に並べたわけでもないのであるが、もともとこの問題を最初に告発した木村真豊中市義は、「極右の学校だから潰してやりたい」というのが動機だったと明言しているし、事実その後、稲田大臣の「教育勅語の核の部分を取り戻したい」という発言をめぐって数週間騒ぐことになったので、右翼vs左翼の戦い的な側面は、意外と大きな論点ではあるのである。
「仲良しだったかどうか」論争
籠池氏は関西の保守人脈の中でかなり顔の広いおじさんのようなので、広義のものも含めて、政治家に色々と「口利き」をしてもらっているのは事実なのではないかと私は思う。また、学校設立認可の申請についても、安倍昭恵夫人が名誉校長になっているのだから、普通に考えたら役所の側にもある程度の「忖度」が働くのは当たり前だ。銀行からの融資なんかでも、政治家に口を利いてもらってる可能性があるという記事もみた。
しかし、「口利き」や「忖度」があったと言っても、それらが「不法」な行為を伴っているとは限らない。行政事務にも、合法に加減ができる幅はあるもので、その幅の中で偉い人の口利きに応えることは、道義的にどう受け止めるかは人それぞれであるし場合にもよるとしても、罪に問えるわけではない。
「不法行為を働いていなければ一切騒がなくていい」とは私は思わないのだが、2ヶ月にわたってあらゆるメディアを賑わし、国会で証人喚問までやってるのだから、不法行為の一つぐらいは出てきてもらわないと割に合わないだろう。たとえば学校認可を出してもらうために、籠池氏が政治家に現金を渡して圧力をかけてもらったりしていると、あっせん利得処罰法などに違反することとなって、大変盛り上がるはずだ。
というわけで、まずは不法行為があったのかどうかを順を追って議論すればいいと思うのだが、実際には、
与党 「籠池のおっさんは嘘つきで頭がおかしい。安倍総理はこんな奴と仲良しなんかじゃない」
野党 「いや、安倍さんと籠池さんはめちゃめちゃ仲良しだったはず。講演したり寄付したり」
籠池 「私は仲良しなつもりでした。色々よくしてもらってますんで」
みたいなしょうもない言い争いに、かれこれ2ヵ月ぐらいが費やされているわけである。
国会の証人喚問は、籠池氏が「安倍昭恵夫人経由で、首相から森友学園に100万円寄付してもらった」と発言したのが問題になり、与党側がそれを打ち消そうとした流れの中で行われたものだ。自民党の竹下国対委員長は「総理に対する侮辱だから」というのを証人喚問の理由に挙げていたが、頭がおかしくなったのだろうか。
そもそも、公職選挙法に抵触するような形ででもなければ、学校を建てようとして寄付金を集めている知り合いのおっさんに100万円寄付することは、べつに問題ないはずである。だから、この100万円寄付論争が仮に決着したとして、そこで明らかになる真相とは何なのかというと、「安倍首相と籠池氏が(100万円プレゼントする程度に)仲良しだったか否か」だけである。
昭恵夫人付き職員のFAXとやらをみると、籠池氏の陳情を役所に取り次いでいるわけなので、安倍夫妻は「口利き」の一種を働いていることは間違いない。しかし先生経由の陳情なんて役所においてはよくあることであり、陳情を取り次ぐこと自体は犯罪でも何でもない。
つまり大騒ぎしている割には、意外にも、不法行為を追及するという流れになってないように見えるわけである。
口利きが不法であることを示すには、その口利きの内容が何かの規則に違反する不当な内容である必要がある。詳しく知らないが、政治家を通じて不当な要求をしている場合、結果として便宜が実現しなかったとしても(トライしてもらうだけで)何かの罪になる場合もあるんだろう。
今回は、何かを試みたことを追及しているというよりも、「結果として8億値引かれた」「結果として私学審議会がOKを出した」ことから話がスタートしているから、まずはその結果がルールに反する不当なものであるかどうかから検証されるのが順当だと思う。
「8億円値引いたプロセスは何々の基準に違反しており不当である!」⇒「その当時の責任者は誰々です!」⇒「実はその裏で政治家の関与がありました!」という話なら騒ぎ甲斐もあるので、まずは8億円の値引きが不当かどうかから順に検証していけばいい。しかしメディアや国会が、いきなり最後の「口利き」のところばかり取り上げるもんだから、わけが分からなくなっている。要求したことの内容や、結果として実現したことの内容が「不当なもの」でなければ、口利きをしていたところで大きな問題ではないのに。
しかもその「政治家の関与」にしても、一番盛り上がるのは直接的な「指示」を出して法を捻じ曲げる的なやつだろうが、安倍総理が直接的に動いたという話はほとんど出てきていない。そこで役人の「忖度」によって物事が進んだのではないかという間接的な関与(といってもこの場合罪に問われるのは役所の方だろうけど)が話題になりはしたのだが、それを検証するのに必要な、近畿財務局や私学審議会の人たちの証言というのはほとんど出てこない。
それで結局、「口利きが合ったかどうか」ではなく、「忖度があったかどうか」ですらなく、「安倍さんと籠池さんは仲良しだったか否か」を国会で追及するという大変愉快なことになったわけである。いやまぁ、口利きや忖度への言及もされてるんだけど、メインテーマは「100万円」の件であって、これは「仲良しかどうか問題」でしかない。
8億円問題は結局どうなのか
森友学園が政治的な圧力によって便宜を図ってもらったのではないかと指摘されている点は、いくつか出てきているが、よく知られたメジャーな論点は、
(1) 私学審議会で森友の学校設置認可申請について「財務状況がかなり危ういのでムリ」との指摘が相次いでいたのに、なぜか「条件付きで認可適当」との答申が出た件。
(2) 2015年に森友学園が行った有害物質の撤去費用1億3000万円を、2016年度予算で措置して払ってもらった件。
(3) 借地契約から買取契約に変える際に、ゴミの撤去費用として8億円強を値引いてもらった件。
あたりであろう。これらは、「不当な内容」を「政治的圧力で通した」と言えるものなのだろうか。
(1) について、内容的には「不当である」と言える可能性は高いだろう。騒動が勃発してからの話ではあるけど、最終的に申請を取り下げさせられてるし。論点としては、森友学園の財務状況に不安があるという点とか、大阪府の基準では土地は原則自己所有でなければならないという点は、解決したのかが怪しいわけである。後者について、貸主が国や自治体であれば敷地に借地が含まれてもよいが、借地に建物は建てられないことになっている。森友学園は購買予約付きの借地というある意味グレーな状態だった。
そういう課題がある中でいったん「認可保留(継続審議)」とされた1ヶ月後に急に「条件付き認可適当」となったプロセスは、殆ど何も明らかになっていない。松井知事と橋下元知事は、「橋下知事時代に規制緩和を猛烈に推し進め、新規参入を最大限認めましょうということになってたのだから、役所がその意向を忖度してゆるい結論を出すことは当然あり得る」と述べている。これは自分たちの非を認めているようにも見えるが、森友学園との個別的な結びつきを問題にさせないためのカモフラージュかも知れない。
(2) については先ほども述べたが、森友学園からしたら「国が払うのが当然」かつ「待たされて迷惑だった」という案件で、その言い分には一理あるので、「不当な内容」とまで言えないのではないかと私は思う。下の年表に出てくる、周辺の土地のケースも含めた過去の経緯からすると、1億円強を国が支払うというのは突出した金額でもない。
そこで(3)である。もともと森友学園問題が騒ぎになったのは、木村真という豊中市議が、「森友学園への土地売却について、売値が非公開というのはおかしいではないか」と2月8日に大阪地裁に提訴したのが始まりだ。その動機は「極右の学校なので潰してやりたい」ということだったらしいが・・・。その2日後に国から売値が公開されて、「ちょw 9億が1億てwww」と話題になったのである。
問題の土地はもともと、「10年以内の買い取り」という条件付きで、2015年から森友学園に有償で貸与されていた。国としては基本的に貸与はせず買い取らせる方針だったようで、かつて豊中市が無償での貸与を求めたときも、「基本は貸与ではなく売却だ」と譲らず揉めている。森友学園側は財務的に苦しかったので、「10年以内になんとか買いますから」ということで、特例的に定期借地にしてもらったのだ。ここも口利きポイントだったかもしれないが、プロセスはよく分からない。口利きを求めたことがハッキリしているのはその後の、「学校経営という事業の性質上、10年間では不安なので、50年に伸ばして経営を安定させたい」という陳情のほうで、こちらは例の夫人付きFAXにもあるように断られていて実現していない。
さて、森友学園がこの土地を借りて学校建設に着手し、まずは土地の整備から始めるわけなのだが、掘ってみたら有害物質が埋まっていることが判明した。下の年表にも書いているが、このあたりの土地にいろんなものが埋まっているということは以前から明らかだったので、賃貸借の話がまとまる前の段階(籠池ノートによると2015年2月)で、国と森友学園は「建設前の土地の整備に係るお金については、国が2015年度予算で払いますんで」と約束していたようだ。
それで森友学園は「実際掘ってみたら廃棄物が出てきたので、何とかしてくれ」と2015年9月に国に陳情する。ところが国は、「今年度予算にそのおカネが入っていない」と言って断った。森友学園としては「ふざけるな、話が違うじゃないか」と怒るわけなのだが、ひとまず撤去は先に自分たちで実施して(籠池氏の言い方では費用を「立て替え」て)、事後的に国に費用を請求することにした。これも何か、口約束的なものはあったのではないかと思うが、よく分からない。森友学園側はめちゃめちゃ怒ってるが、なんとか次年度の予算で早々に払ってくれよという調整を付けたわけである。
そしてちょうどその支払の直前であった2016年3月になると、こんどは生活ゴミが大量に見つかった。これでまた予算化を待たされるとなると開校の予定にも間に合わなくなってしまうので、籠池氏としてはそれはどうしても避けたかった。
そこで国に対して再び陳情を開始するわけである。もともと2015年の陳情でも、「撤去費用は森友負担でいいから賃借料を半分にまけて欲しい」的なことは言っていたようで、この2016年の陳情でも同様のことを主張した可能性は高い。証人喚問でも、籠池氏は「感覚的に半分ぐらいになったらいいなと思った」と述べている。
しかし、代理人の弁護士に交渉を任せていたところ、この弁護士は「買い取ったほうが得です」みたいなことを示唆してきたので、森友学園は買い取りを希望することにした(このあたりも、理屈やプロセスがよく分からない。財務省は証拠を捨ててしまったし、弁護士は辞めて逃亡したので)。撤去費用が8億いくらと見積もられて(籠池氏は当初、この金額を知らなかったらしい)、差し引き1億円強という金額で買い取れることになったのである。
さて、この撤去費用の8億円の妥当性についてなのだが、色々読んだ感じからすると、国交省(大阪航空局)と財務省(近畿財務局)で見積もるにあたって、ゴミの量の確認はろくに行ってないみたいなので、たぶん計算は適当だったのだろう。財務省の国会答弁でも、「単価」の設定等については「通常のルール通りだ」と詳しく説明していたが、「数量」についてはごまかしてる印象だった。
で、森友学園側はもともと「年間2700万円」で借りていたのを「半額ぐらいにしてほしい」と思っていて、半額×10年にするとちょうど1億いくらになるので、この水準に合わせてゴミの撤去費用を適当に合わせたのではないかと疑われているわけである。
その可能性も否定はされないので、検証すればよい。しかし、である。あまり報道されていないのだが、周辺の土地も過去に大幅に値引きされてたという事実があって、この問題はややこしいのだ。
今年の2月9日、つまり木村真・豊中市義が大阪地裁に提訴した翌日に、朝日新聞等がこのことを記事にしている。「だいたい同じ広さの隣の土地が、豊中市には14億円で売られているのに、森友学園には実質1億いくらで売られて10分の1になってるのはおかしい!」ということで騒ぎになったわけである。
ところがこの時の報道では、2010年に豊中市に土地を売ったときも、実質的には14億円ぐらい値引きされて、タダ同然になっていたことが伏せられているのである。売却とほぼ同時に、住宅市街地総合整備事業補助金(国交省)で7.1億円、地域活性化・公共投資臨時補助金(内閣府)で6.9億円が国から支払われ、さらに売買契約が瑕疵担保責任ありだったので、豊中市による土地の事前整備時にかかった盛り土封じ込め費用の約2000万円も国から支払われた。ちなみに当時は民主党政権である。
他にも近隣で、給食センターを建てる目的で2015年に豊中市に売った、似たような広さの土地がある。これは約7億円で売ったものの、その後に整備を始めたら瓦礫が見つかって、豊中市側で撤去費用を見積もったところ14億円ぐらいかかることになったとのことだ(笑)
この契約には瑕疵担保責任が定められているので、「国が払うべき」と言って現在進行形で揉めているようだが、詳細は不明である。
森友学園が今回買った土地は、2011年頃に大阪音大も買取りを希望していて、この時は音大側がゴミの撤去費用を2億5000万円と見積もっている。森友の「8億円」は、工事を開始して杭を打ち始めてから明らかになったゴミに関するものなので、本当に大量のゴミがあるのかは上述のとおり不明であるものの、一応、音大の試算より高くなる理屈はあると言える。
また、国が貸した土地にゴミが見つかって小学校の開校が遅れたとなると、森友学園から損害賠償を求められる可能性があるから、売却交渉をさっさとまとめようと思ったという財務省の説明は、保身のために言ってる部分もあるだろうが、理屈は通っている。売却契約には瑕疵担保責任の免除(以後さらにゴミが出てきても国は責任を持たない)条項も付けるわけで、その分安くなるべきとも言える。
これらを総合すると、「森友学園に8億円値引きしてやったのが妥当か」というと、妥当ではない可能性は結構あるが、「意外と妥当だった」という可能性も、「他の売却案件も同程度にいい加減だった」という可能性もまだある。他の案件も適当にやってるなら、ことさら森友学園の件だけ口利きがあったのではと騒ぐのも変かも知れないのだ。
だから改めて調査をやって、「▲8億は妥当なのかどうか」⇒「妥当じゃないとすれば誰の責任か」⇒「背景に政治家の口利きはあったのか」という順番で話をしていけばよい。
だいたい、財務省が証拠を捨てていたり、2月下旬に籠池氏に「10日間ぐらい姿を隠してくれ」と頼んだりした経緯からして、いろいろ怪しそうではないか。ところが、その点の追及に向かうことはなく、メディアも国会も「安倍と籠池は仲良しか問題」にしてしまっているところが意味不明である。
なぜわけの分からない感じになっているのか
上のまとめも、下の年表も、世間が盛り上がっている話題がなかなか理解できなかったので頭の整理のために書いてみたものであって、私個人としては、「真相を知りたい」とはあまり思わない。学校建設の件で、籠池氏や安倍総理が何をしていようが腹も立たないし、嬉しくなる要素もない。
ただ、世間が盛り上がっている割に、盛り上がり方の方向性が変だと感じられたので、「どうせ騒ぐなら、こういう議論をすればいいのでは?べつに騒がなくてもいいけど」と思って整理をしているところである。
その程度のものなので、このエントリを起こすにあたって、ソースの確認などを厳密には行っていない。だいたい分かればいいので。
ところで、8億円の件がスッキリした議論になっていないというのも変であるが、こんなしょうもない議題で証人喚問を行って、犯罪者でもない民間人を国会に呼びつけ、間違ってたら偽証罪に問うぞと脅している様子もかなり暴力的であると言える。
またここ数日、安倍夫人と籠池夫人のメールをもとに、辻元清美議員が森友学園に「侵入」したという疑惑で盛り上がっていたらしいが、これはかなり衝撃的だった。私も、はてブのホッテントリ一覧とかを眺めていて、タイトルに「辻元清美」と入っている記事がいくつか目に入りはしたのだが、その時点では森友問題で辻元議員など全く重要な登場人物ではないと思っていたから、クリックもせずに無視していた。両夫人のメールはネットにも上がっていたから私も先週ぐらいに読んでいたのだが、まさかこれを根拠に何かをマジメに主張する人いるとは想定外過ぎた。
なんというか、思った以上にみなさん頭がヤバくなってますねと・・・。
「右翼叩き」のモチベーションが強すぎる
なんでこんなにいびつな騒動になっているのかというと、分からないことも多いのだが、その原因の一端は、木村真という豊中市義がこの問題を最初に告発する時の動機が「極右の学校だから潰してやりたかった」ということだった点にあるのではないか。マスコミや国会野党へ伝わるにあたって、最初から、焚き付け方がおかしいのだ。
稲田大臣の「教育勅語の核の部分を取り戻すべき」発言でしばらく盛り上がったのが、そのことをよく象徴している。「核の分」がどこかなんて何とでもいえるのだから、こんなのいくら騒いだところで大臣を叩き切れるわけがない。教育勅語が好きでも嫌いでもいいのだが、問い詰め方がまったく合理的でない。「私が思う核とは、仲よくしましょうの部分です。あなたがどこを核と思ってるかは知りませんけど」と言われたら、それ以上追及のしようはないにもかかわらず、米軍占領下の国会決議を持ち出して「稲田大臣は罷免すべき」と騒ぐ弁護士まで現れて笑ってしまった。
「極右の森友と安倍を叩きたい」という動機で仕掛けられた騒ぎなので、当初から「安倍と籠池は仲良しなのか否か」というどうでもいい話題にこだわる人々が一定割合で存在しており、その方向で盛り上がった人たちが話をわかりづらくしている面がかなりあるように思う。
また、それに対する与党のリアクションも過剰な防衛になっている。小田嶋隆がコラムで書いていたが、「首相夫人は私人」とか「私や妻が関与してたとなれは総理も議員も辞任する」とか、言わなくて良いことを言うもんだから、揚げ足取りでしょうもないツッコミを入れたくなるというわけである。
べつに森友学園で講演したって、100万円寄付したって、名誉校長になったって、それ自体は構わないのに、ここまで躍起になって籠池切りをしたがっているのは何なのか。この過剰さは、なにかやましいことを隠すためのものかもしれないが、単にアホというか合理的でなくなっているだけかもしれない。
パーソナリティを踏まえずに証言を解釈している
また、重要である割に軽んじている人が多いのが、登場人物がどんなパーソナリティの人たちなのかである。この事件をめぐっては今のところ物証が乏しい点が多く、「証言」をもとに色々な憶測が飛び交っているわけなのだが、「証言してる人の性格」というパラメータを踏まえて解釈しないと、大きく間違えることもありそうだ。もちろん、知り合いでもないのに性格なんて分かるかという話なのだが、想像してみてなるべく念頭に置きながら物事を解釈するぐらいのことは必要だ。
まず籠池氏に関して言うと、菅野完氏が「意外と、ふつうの仕事熱心な大阪のおっちゃん」と表現していたのは恐らく正しいのだろうと私は想像している。付け加えるならば、この人は「思い込みが強いタイプ」でもあるだろう。「うそつき」とか「ダーティなビジネスマン」といったイメージではなく、「一生懸命で暑苦しく、思い込みが激しくてめんどくさい」人物だと思われる。
政治家にいろいろ働きかけて、ちょっとよくしてもらうと、「あの先生は、森友学園がお国のために頑張っていることを理解してくれている。ありがたいことだ」とすぐ感激してしまって、ある意味一方的に信者になったりすることも多いのだろうと思われる。
籠池氏が、安倍総理をはじめとして様々な政治家から便宜をはかってもらったかのような証言をしているのも、そういう性格がかなり関係していると思う。政治家の側からすると、「関西では顔が広いおっちゃんだし、自分の支持者だから、悪くはできないな」程度に対応しただけであったとしても、籠池氏のほうは「めちゃめちゃ良くしてもらった」と勘違いして、本気で喜んでしまうのだろう。そして、「森友学園の理念を分かってくれる○○先生に良くしてもらっている」というのは、彼にとって本当に誇りなのだろう。
また、誹謗中傷にならないように言葉を選ぶ必要があるのだが、安倍昭恵夫人と籠池諄子夫人はともに、霊能力者か宇宙人のような人たちだと思った方がよいのではないか。この人たちもたぶん、嘘をついて誰かをだまそうとするタイプではなく、本当にいろいろ思い込みで突っ走るタイプだろう。
こういう人たちが、記憶に基づいて何か証言したり、メールをやりとりしたりしているのを、いちいち真に受けていること自体がちょっとおかしいのだと、外野の我々は認識したほうがいいと思う。
掘ればいろいろ出てくる
最後にもう1点あげておくと、籠池氏は政界にも顔の広いおっさんで、めちゃめちゃ熱心にロビー活動を行うから、政治家に色々と口を利いてもらっているのは確かなのだろうと思う。先ほども述べたように、適法な範囲内であれば口利きをしてもらってもべつにいいのだ。
で、そういう人だから、掘れば色々と疑惑のネタにできそうな事実は見つかるのだ。そして籠池氏もそれを言いたがるところがあるから、話題に事欠かない感じになっており、そのせいで落ち着いて議論の道筋を整理するというふうにはなかなかならないのであろう。
年表(暫定)
以下は自分で適当にまとめてる年表で、頭の整理のためにメモしてるものなので何度も確認したりはしておらず、間違いも結構あるかもしれません。あとで暇があったらソースへのリンクも貼りますがひとまず今はめんどくさくてやってません。
- もともとこの伊丹空港周辺の土地は、騒音区域に指定した上で、大阪航空局が買収し、管理していた。その後、防音技術が進歩してだんだん騒音区域が小さくなり、騒音区域の指定から外れた土地については、どんどん売却していった。今回問題になっている場所も、全て売却する予定になっていた。*2
- 籠池氏は10年前から小学校設立の構想を持っており、「安倍晋三記念小学校」を作りたいと考えていた。安倍晋三が衆議院議員のときに「安倍晋三記念小学校」という名前を使いだして、第二次安倍内閣組閣の時に断られたらしいので、使用期間は2007年〜2012年の間である。
- 豊中市は問題の土地を、公園にしたいからと無償貸与を求めてきた。が、国は土地はタダでは貸せないしそもそも売却が原則だと言って、交渉がまとまっていなかった。2007~08年ごろになると、「2010年までに買ってほしい、それができないなら別のところに売却する」と市に最後通牒を突き付けてきた。*3
- 2009年〜2012年に、国交省が調査をしていて、3メートルぐらいの深さまで廃材とか生活ゴミとかが埋まっていることは明らかになっていた。*4
- 2010年に公園用地として、豊中市が求めた土地の半分ぐらいを14.2億円で売却(9492平米)した。豊中市はもともと「タダで貸してくれ」と交渉していたが、結局有償になり、値段も高かったので面積は半分で我慢したらしい。この時の不動産鑑定額は9.1億円。ただ、住宅市街地総合整備事業補助金(国交省)で7.1億円、地域活性化・公共投資臨時補助金(内閣府)で6.9億円が国から支払われた。さらに売買契約が瑕疵担保責任ありだったので、豊中市による整備時にかかった盛り土封じ込め費用の約2000万円も国に請求して支払われたため、結局ほとんどタダ同然の費用で買い取ることができた。
- 籠池氏は2011年9月、学校設置基準の緩和を求めて大阪府に働きかけ始める(忘れたがたぶん大阪の議員経由でということだったと思う)。内容としては、学校の建設資金は自己資本でなければならないことになっていたのを、融資でも建設できるようにしてほしかった。
- 2011年に大阪音大*5がこの国有地の取得希望を国に伝え、調整が始まった。この時は音大側で、撤去費を約2億5千万円と見積もった。2012年4月に国交省から「大量の埋設物がある」と知らされており、見積もりをゼネコンに頼んだもの。この撤去費をふまえ、もともと7億~8億円で交渉していた購入希望額を約5億8千万円にしてくれと頼んだが、財務局からそれでは安すぎると言われ、断念した*6。橋下メルマガでは、大阪音楽大学が近畿財務局に買い取りの交渉をしてきたのは2012年からとされているが、時期はどっちが正しいかよくわからない。
- 2012年、大阪府によって学校設置基準が規制緩和される。もともと、小中高大の運営実績がある場合は融資で建設してもいいことになっていたので、「学校法人の運営実績があれば」という基準に変更し、幼稚園の運営実績でも融資による建設が可能になった。これについて松井・橋下は、森友学園に便宜を図ったのではなく、全体として猛烈に規制緩和を進めていて株式会社立も誘致しようとしていたので、その緩和の一部だと説明している。
- 森友学園が取得した問題の土地は、いったん2012年10月に(伊丹空港と経営統合された)新関西国際空港に対して現物出資され、新会社のものになっていた。大阪航空局内ではこれをもって、土地売却のミッション完了ということで、土地管理の部署が解散した。
- 2012年12月に、安倍晋三が自民党総裁となって第2次内閣の組閣をした。この段階で、「安倍晋三記念小学校」という名前はやめてくれと言われたので、森友学園側では使用を控えるようにした。もともとは、勝手に名前を使っていた。
- 近畿財務局は、新関西国際空港に現物出資した土地について「大阪音大に売れそうだ」ということで、2013年1月に国の所有に戻した。橋下メルマガでは大阪音大に売るためにと書かれているが、他の記事では表向きは「手続上の錯誤があったため」とされてたみたいで、背景はよく分からない。土地は航空局が保有していたが、売却の事務は近畿財務局の仕事である。結局財務局は上述のとおり、大阪音大とは値段が折り合わずに破談して、売れなかった。
- 豊中市は2013年4月、後に森友が買ったエリアのうち約472平方メートルを、特定有害物質の汚染区域に指定した。
- 2013年9月、近畿財務局による土地取得の公募(6月からやってた)に森友学園が応じた。小学校用地としての取得を希望。国有地の売却等については公共の目的での利用が優先されることになっており、他にそういう希望はなかったので、森友学園と相対で交渉することになった。
- 2014年10月、森友学園が大阪府に、小学校設置認可申請を提出。
- 2014年12月、大阪府で私学審議会開かれるが、森友学園の財務状況に問題があるとの指摘が相次ぎ、認可保留となった。
- 2015年1月に開かれた私学審議会では、一転して、「条件付きで認可適当」の答申が出た。条件とは、「小学校建設に係る工事請負契約の締結状況、寄附金の受入れ状況、詳細なカリキュラム及び入学志願者の出願状況等、開校に向けた進捗状況を次回以降の私学審議会の定例会において報告すること。」
- 2015年2月、航空局・財務局との間で、ゴミ等の撤去費用(ノートには「工事費」と書いてある)が発生した場合は、2015年度予算で支払うとの口約束が行われた(と籠池氏は認識)。《籠池ノートより》
- 2015年5月29日、近畿財務局は森友学園と10年間の定期借地契約と期間内の売買予約契約を結んだ。
- 2015年8月、学校建設予定地から有害な埋設物が見つかり、近畿財務局と大阪航空局も現地で確認した。籠池氏はそんなものが出てきてびっくりしたみたいに言ってるが、もともと汚染地域にも指定されていたわけなので、不思議なことではない。
- 2015年9月4日、有害物質の件で森友学園側は近畿財務局に対して陳情を行う(籠池氏本人ではなく、弁護士と業者が?)。*7
- 2015年9月5日、昭恵夫人が塚本幼稚園で講演した。100万円を寄付したとされるのはこの日。
- 2015年9月、当初は土地の整備に係る工事費は2015年度予算で国が払うと約束(たぶん口約束)していたのに、2015年度は予算化されていないことが判明。2016年度予算まで待ってくれと言われたが、11月に土地の整備が終わって建設に着手するはずが4ヵ月延びることになり、学校開設にも影響が出るし、4ヵ月遅れる分の利息は払う気あるのかなど、籠池氏側は国に対して不信感を抱いた。*8
- 2015年12月3日、森友学園が、大阪府、国交省、関西エアポート*9のそれぞれに対して、金額の異なる工事代金の契約書を提出した。国交省には補助金申請、関西エアポートには助成金申請のためだったので高めの価格を出し、大阪府には、私学設置認可をもらうため財務上の懸念を払拭しなければならないので、安めの金額で出したと考えられている。
- 2015年12月までに、すでに見つかっていた有害物質を森友学園側が撤去し、豊中市による汚染区域指定は解除された。籠池氏は「立て替えていた」と証言しているが、この段階で、撤去費用の負担について何か国側と合意があったのかというと、上述のとおり2月に国側と口約束していただけと思われる。
- 2015年?月、豊中市は給食センター用に、7200平米を関西エアポートから7億7148万円で購入(森友学園の8770平米よりすこし狭い)。購入後に瓦礫が大量に埋まっているのが見つかり、撤去費用を見積もったら14億3000万円となった。現在どうなってるのかは不明だが、瑕疵担保責任ありの契約らしいので、関西エアポートに「払え」と交渉中?
- 2016年3月、森友学園に貸している土地で前年に見つかっていた有害物質の除去費用1億3176万円について、国が負担する合意書を締結。
- 2016年3月、杭を打ち始めたら新たに生活ゴミが出てきた。籠池氏としては、追加分の処理費用はどうせ2016年度予算は措置できないのだろうと考え、また次年度予算まで待つことになって建設が先送りになるのは困るから、国に陳情を開始。感覚的に、借地料を半分ぐらいにまけてくれたら良いと思った。が、国側との交渉を代理していた弁護士が、「買い取ったほうが得です」と籠池氏に示唆したので、森友学園は買い取りを希望する旨を表明した。
- 2016年4月、国交省(航空局)が、新たに見つかったゴミの撤去費用を見積もった。8億いくらと試算されたが、籠池氏はこの金額を当初知らなかったと証言している。
- 2016年6月、近畿財務局は土地を森友学園に売却。瑕疵担保責任が免除される特約を付けている。もともと国の瑕疵でゴミが埋まっていたわけで、それが原因で開校が遅れて森友学園から損害賠償などを請求されたら大変なので、安値でもいいからさっさと売ってしまい、さらに瑕疵担保責任無しにしたかったらしい。
- 2016年10月、稲田防衛大臣から森友学園に感謝状。(自衛隊に園児がプレゼントしたか何かのお返しなので大した話ではない。)
- 2017年2月8日、豊中市の木村真市議が、「森友学園に売却した土地について、価格が非公表なのはおかしい」と大阪地裁に提訴。もともとこの土地は豊中市が無償貸与を希望して国から断られた土地だったので背景が気になったことと、森友学園は「極右の学校」なので潰したいと思ったとのこと。木村真市議は前年から、この件についてマスコミに騒いで欲しいと思って調べ物をしたりしていた。
- 2017年2月9日、朝日新聞等が上記の訴訟に触れ、この土地について「近隣の土地は14億で売却されているのに森友学園には10分の1の価格で〜」と報道して、騒動が勃発。ただし、その豊中市に売ったときも補助金等が14億円出て、実質タダになったことには言及していない。
- 2月10日、近畿財務局が売却価格や撤去費用の見積額を公表。
- 2月22日、大阪府の私学審議会で、森友学園の経営に対する疑問が噴出。
- 昭恵夫人、名誉校長辞任。
- 2月下旬、財務省から弁護士を通じて籠池氏に、10日間ほど身を隠して欲しいと告げられた。
- 3月10日、森友学園は小学校設置認可の申請を取り下げた。
- 3月23日、籠池氏の証人喚問(午前中参院、午後衆院)。