The Midnight Seminar

読書感想や雑記です。このブログの裏で始めた統計&プログラミングのブログのほうがアクセスが伸びてしまい、こっちが裏みたいになってます。

「文系の大学院生」が就活で苦戦する理由

 「『頭のいい』女子はいらないのか——ある女子国立大院生の就活リアル」という記事(リンク)が話題になっていて、Twitterではなぜか「女だからというより、『文系の院生は使えない』からだろ。とくに社会学はダメだ」みたいな話になっていて、以下のようなまとめまで出ていた。
togetter.com


 文系の院卒の就職率が相対的に悪いこと自体は、調査からも明らかになっている。しかし個人的な経験や見聞きした範囲からいうと、事務職・総合職の採用面接*1では最低限のコミュニケーション能力があるか、頭の回転はどうか、常識的に求められる準備をしてきた感じがするか、人柄はどうかなどをみていることがほとんどで、「文系の院生である」という書面上のスペックで評価が下げられるという印象はないし、社会学が何であるかについてほとんどのビジネスマンは知らないし興味もないだろう。
 逆に、「文系の院生に、準備不足なやつが多い」という可能性はあるかもしれないと思ったけど。
 私自身は今年から、企業で働くのをやめて大学にきてしまったので、採用する側の感覚がどんどんわからなくなっていくだろう(逆に学生を企業に送り込む側になる)から、今のうちに、民間企業への就活についての個人的な認識をメモしておこう。

学歴フィルターは存在する

 企業の採用担当は、リクナビとかマイナビを通じて、登録している学生にセミナーの案内を送ったりするのだが、1件1件いちいちリクナビ等に課金されるので、採用担当が確保している予算の範囲内で、必要最小限に抑えるための絞り込みを行いたいと考えるのは当然だ。とくに大手企業の場合、毎年の応募者が数千人になるのだが、この規模になると初期段階でいかに効率的に絞り込むかはけっこう重要だ。説明会で全国行脚するとして、1つ1つの会場で500人くるのか100人くるのかで、かかる費用も動員する社員の数も変わってくる。
 そう考えたら、ひとまず大学のランクで案内先を絞ってみようと思うのは、良いか悪いかは別にして、自然な行動とは言える。専門職の場合はもちろん他に絞込要素があるだろうし、職種によっては性別も絞り込み要素かもしれない。とにかく分母の受験者数が多いので,セミナー案内以外の面でも絞り込みは行われるはずである.
 もちろん、大学のランクみたいな大雑把な指標で人物を評価しきれるわけがないから、逸材を取りこぼすことも、危険人物を釣ってしまうこともあるだろう。しかし危険人物はその後のプロセスで弾けばいいし、逸材の取りこぼしも、毎年100人とか採用する企業にとっては、この100人が全体として有能であることのほうが大事だし、100人も採れば結構な逸材が混じっていることもそれなりにある。また、仕事の能力なんて、働き始めないと分からんことも多い。


 この「人数が多すぎるからフィルターする」段階で「文系大学院在席者」を弾いている企業って、あるのだろうか?
 あるのかもしれないが、私がいた会社では文系大学院在籍者がふつうに面接まで受けていたし、採用もされている。その他の例でも面接までは進んでいる話をよく聴くから、事前に切られているという印象はない。切られるケースも無くは無いのかもしれないが。
 なお、学歴フィルターと言っても、偏差値の高い大学から順に選択されるかは分からない。就職人気度がある程度に達しない会社は、あえて一線級の大学を外したほうが、自社で長く働いてくれる人材を見つけやすい可能性がある。

面接まで行けば書面上のスペックはあまり関係ない

 上記のとおりセミナー案内などの段階で学歴フィルターが働くことは珍しくないと思うが、面接までいくとあまり関係ないと思われる。有名大学に在籍していることは多少の下駄になる(最低限の賢さを持っていると安心してもられる)と思うが、大企業の面接だと既にそこそこ名の知れた大学名ばかりになっていることも多いだろう。
 「文系の大学院(修士課程)」に在席していることが不利になるのかどうかというと、全くならないと個人的には思う。というのも、専門職は別として、大学での勉強やサークル活動やアルバイトの話なんて、一応それぐらいしか話題のない学生も多いから面接で聞きはするものの、企業で長年働いている人間からすればはっきりいって「全く興味ない」からだ。
 サラリーマンが周りを見渡してみれば、20歳そこそこの一時期に何をやってたかなんて全く関係なく様々な仕事をして、様々な評価を得ている人がほとんどだから、「大学で何を専攻してるか」とか「大学院に行ってるかどうか」がその後の職業能力に大きく響くと思っている面接官なんてほとんどいないだろう。ちなみに私自身はどちらかといえば、2年間であっても「研究」のサイクルを回したことがある経験は貴重だと思っていて、文系であっても院生・院卒に対しては好印象を持つのだが、そういう認識を形成して以降、面接官を経験することはなかった。


 就活に成功した学生の話を色々聴くと分かるが、「その会社を受けにきた経緯」として相手が理解しやすい手短なストーリーをでっち上げるスキルを、だいたいみんな持っている。そして、履歴書やESに書いた事柄はいずれも面接で話題になる可能性があるから、とにかくどこを突かれても「ああ、なるほどね」ととりあえず理解させる程度のストーリーをちゃんと考えている。
 「志望動機」というのも、単に「御社の◯◯のビジネスに興味がありまして」みたいな話をすればいいのではなくて、履歴書やESに書いた他のこととストーリーがつながるように説明できないといけない。もちろん、「大学では◯◯を専攻してますが、実は結果的にそれにはあまり興味を持てませんでして(笑)、いまは個人的にこういうことを調べてて関心を持ったんです」みたいに、「関係ない」ということを積極的に説明するストーリーだってあり得ると思う。学部だろうが院だろうが、専攻が何だろうが、なんか尤もらしいストーリーを考えればいいだけの話なのだ。
 それに、「学問の内容」について述べる必要も必ずしもなくて、たとえば「大学院では、研究テーマを考えたり論文を書く際に、先行研究とか公的な統計情報とかを徹夜しながら死ぬほど調べました。そういう、調べて何かを明らかにするという作業が自分は好きなんだと分かりまして〜」みたいな言及の仕方だってあるだろう。実際に調べ物をろくにしてない人でも言えるし、会社の仕事に調べ物はつきものなので、どこを受けるにしても関係がなくはなさそうだ。

失敗する原因はたぶん「準備不足」

 理系に比べて文系の場合は大学院に進学する割合は低いから、目立つとは言えるだろう。つまり「納得のいく説明を求めるポイント」が増えるとは言える。
 しかし、たとえば面接官に「あなたは大学院で◯◯を専攻してて、うちの会社の仕事と関係なさそうな気がするけど、いいの?」と聞かれて、相手に「なるほど」と言わせる回答が即座にできないのは、単にでっち上げ練度が低いか、準備不足ということだろう。
 もともと学生時代にやっていた活動の延長上にある企業を受ける場合は、理由を「でっち上げる」必要はないだろうけど、たいていの人は何十社か幅広く受けるので、そういう工夫が必要になる。その工夫は大して高度なものではないのだが、意外とできない人、やらない人がいる。何か強いこだわりを持っていて、相手にあわせてストーリーをでっち上げるなんてことには抵抗があるという人もいるだろうけど、それよりは単純に「いいストーリーを思いつかない」人と「そういうストーリーの準備が必要だと分かってない」人が多い気がする。


 たとえば、ものすごくローカルな企業(や市役所)を受けるのに、「あえてその地域で就職したいと思った理由」を全く考えてなかったらダメだろう。とくにその地域の出身者でないのであれば、「なんてわざわざこんなところで就職するの?」と聞かれるのは当然で、事前に回答を考えとかないといけない。でも、その程度の準備もしてない就活生は、一定割合でいると思う。
 そもそも履歴書やESというのは、面接官にどういう質問をさせたいか、面接官とどういう話がしたいかを考えて誘導するように書くべきものだと学生時代に教わったのだが、たぶんそのとおりだ。もちろん嘘を書くわけにはいかないが、それでも書きながら、どういう会話をするか想像することは必要だろう。これは、会社に入ってから営業提案とか社内稟議の書類を作る場合だって同じ話である。
 文系の院生は、少数派=外れ者ではあるから、学部3〜4年生の時にみんなと一緒にそういう「最低限の準備」をする経験をしておらず、そのせいで「準備の必要性」を認識していないといったことはあるのかもしれないと想像したが、どうだろうか。

就活はたいていの人が思うより多様

 私にも言えることなのだが、就活や採用というものについて1人の人間が知っている側面は非常に限られているので、ほとんどの話は話半分に聴くべきだ。
 どういう人材が求められるかは、業種によっても、職種によっても、会社の規模によっても、会社の文化によっても、その時会社が抱えている課題によっても、さらには会社内の部署によっても、その部署にいる社員のパーソナリティによっても、異なってくる。私も含めて大抵の人は、自分が知っている狭い範囲の経験に基づいて語っているのだが、だいたい人間は自分の視野の広さを過信しがちで、自分の考えが一般的に当てはまると勘違いするものなので、注意が必要だ。
 就活には、結局「やってみないとわからん」面が結構ある(スキルが絶望的に低かったり、神レベルで高かったりすると別だろうけど)。上記のような「準備」を全くしてなかったら落ちるということは分かるが、それなりの準備をしているのであれば、あとは運だと思って数をこなすしかないんじゃないだろうか。

*1:「専門性を生かしたい」とか思ってる人は自分で間口を狭めてるだけだから、考察の対象外とし、ここでは「学部卒の奴らと同等に就職したい」と思っている文系院生のみを想定してるので、主に事務職・総合職の採用について考える。