The Midnight Seminar

読書感想や雑記です。近い内容の記事を他のWeb媒体や雑誌で書いてる場合があります。このブログは単なるメモなので内容に責任は持ちません。

長時間労働の問題なのか?

 電通の社員が自殺に追い込まれたという事件が話題になっていますが、気になったのは、「長時間労働」の問題だと捉えているような記事が目につくことですね。


電通新入社員が自殺 広告業界に蔓延するクソ長時間労働の根深い実態を書いておく : おはよウサギ!
電通新入社員:「過労自殺」労基署認定…残業月105時間 - 毎日新聞
そろそろ電通あたりの広告代理店は「ブラック企業」であることを常識にしようよ。


 もちろん、連続20時間会社にいたことがあるとか、月100時間以上の残業というのは明らかに過重労働なのですが、それだけで自殺に追い込まれるものでしょうか。そもそも東大を卒業して電通に就職するような人が、暇な職場を想像していたとも思えないし。
 既にセクハラ・パワハラに該当するような発言もいろいろ報道されていて、そっちのほうが大事なんじゃないかと私には思えます(リンク)。新人に長時間労働を強いたという点以外でも、上司や同僚がいかにクソな人間であったかという問題です。こんな奴らと働いていたら、定時で上がっていても嫌になるってレベルのクズだったんじゃないでしょうか。
 もちろん私はその上司や同僚を私は知らないので、クソな人間であったという証拠はなく、立派な人間であったとしたら申し訳ないですが。
 
 

長時間労働には案外耐えられる

 なんでそんなことを思うかというと、ブラック企業批判が好きな人から文句を言われそうですが、長時間労働そのものは、案外耐えられるものだからです。
 一般論として言えば、月100時間程度の残業を数ヶ月連続でしているような人は業種を問わずザラにいます。広告代理店が特別なわけでもなんでもなく、コンサルやSEも長時間労働が当たり前ですし、何かと嫌われている「霞ヶ関の官僚」もかなり長時間働いてます。
 100時間というのはたしかにかなり多くて、私の職場だと管理者が責任を問われて良いレベルなのですが、かといって耐えられないほどの地獄かというとそうでもない。たとえば週1回休日出社して8時間×4週=32時間、あとは20営業日×3.4時間で100時間に達しますので、18時が定時だとして每日21時半頃には帰れるわけですから、まぁ数ヶ月なら耐えられる人も多いんじゃないでしょうか。もちろん個人によって事情は異なり、家庭があったりプライベートでやりたいことがあると辛いし、体力にも個人差はありますが。


 ちなみに私は入社2年目〜3年目に非常に忙しい仕事があって、ピーク時は180時間ぐらいの残業が2ヵ月続いたこともあります。每日終電までは働いて、帰れそうなら帰るし、帰れなそうだったらもうちょっと仕事して会社で寝るというスタイルでした。土日もこの2ヵ月間は全て出社でした。月曜の朝に出社して金曜の夜に帰宅したこともあります(そして土曜日も出社)。
 当時のチームには私より若い女性社員もいましたが、彼女も家に帰らずそこら辺のイスで仮眠を取っている時がありました。
 2ヵ月ぐらいなら200時間でもいけるわとか言われそうですが、このピークの2ヵ月以外も残業は多くて、20代の頃はなんだかんだで最低でも週1回ぐらいは徹夜や泊まり込みをする程度には長時間労働が常態化しておりました。
 
 

長時間労働になぜ耐えられるのか

 年間を通して毎週のように徹夜作業があるとか、ピーク時の残業180時間とかいう状況に私がなんで耐えられたのか振り返ってみると、一言でいえば「楽しかった」からです。
 私(を含むそのチーム)の場合、仕事の内容が面白かったわけではないんですが、売上につながる業務ではあり、「本社でここまでやっておけば現場から感謝される」的な意味のある仕事ではありました。そしてそれ以上に、当時のチームは上司も含めて「大学のサークル」みたいなノリで仕事していて、パワハラとかはもちろんないし、行動もけっこう自由で、楽しめる職場だったんですよね。
 一方、漫画家のアシスタントとかイラストレーターとかデザイナーとかも仕事がきついと言われますが、そういう人達は、好きでやってる仕事だから他の人より長時間労働に耐えられるっていう面はあるんでしょう。
 いずれにしても、やりがいや楽しさを感じられるかどうかで、長時間労働に対する耐性はかなり変わるわけです。私も、上司や同僚がクソみたいな奴だったら、休日出勤なんて耐えられないですね。


 ちなみに私の場合、休日出勤については残業代を請求してましたが、深夜までやったとしても8時間分にしてました。また、平日の深夜は23時ぐらいまでしか請求していません。これは私以外の人も概ねそうでした。パソコンの使用とかオフィスへの入退室は全部ログが取られているのですが、残業の実績が管理されるシステム上は、23時に帰ったことにしてたわけです。
 べつに上司から強要されたわけでもなく、みんな自然とそうしていました。深夜作業となると、途中でラーメンを食いに出かけたり、サウナに行ったり、「俺眠いからちょっと寝るわ。2時ぐらいに起こして」みたいなこともあったりするので、ずっと働いていたと申告することの罪悪感もあるのですが、それよりは、「俺たちはチームとして頑張ろうと思ってやっているのだから、外野から労働時間管理がどうのこうのとくだらない文句をつけられたくない」というマインドを上から下まで共有していたという感じですね。


 こんなマインドは、本当に不毛な仕事内容だったり、上司や同僚に嫌な奴がいたら維持できないでしょう。何より、「やらされている」という感覚でやっていたわけではなく、むしろ「好きで勝手にやっている」という感覚だったからこそ、可能になったのだと思います。
 私が仮眠を取っているときに、先輩が私の顔をビンタして「起きろ!」と叫んだ場面があったらしいのですが(私は熟睡してたので記憶がない)、職場での話だと「なんてブラックな……」と思われるでしょうけど、大学のサークルの話だとすればそうでもないでしょう。それが笑い話に出来る程度には、信頼関係の築かれた職場だったということです。
 
 

対策を間違えないように

 私はふつうの人より徹夜に強いという自覚があるし(寿命を縮めているとは思いますが)、職場に恵まれたおかげで長時間労働に耐えることができたのであって、それは他のチームメンバーでも同じです。
 しかしこれは稀な例なのかというと、残業月100時間に耐えられる程度に体力と環境に恵まれている人は、世の中にはけっこういるので、長時間労働の話というのは珍しくないわけです。いろんな職場の人が集まって、「うちはこんなにも大変な仕事があった」と「ブラック自慢」をしている場面もよくありますね。


 私は、条件が揃っていて必要なら長時間労働はすればいいと思うし、なくなりもしないと思います。「短時間で成果を出すほうがイケてるビジネスマンだ」みたいな信仰もありますが、多少残業したぐらいでは生産性がゼロやマイナスにはまずならないので、短期的な話としては、「あと1時間働けば、働かないよりは良いアウトプットになる」ことが多いわけです。(例えばエンジニアの場合で、「眠くてプログラムの書き間違いを多発して自分でも気付いていない」ような状態だと、生産性がマイナスということにもなりますが。)
 每日定時上がりで最高の成果を挙げているとかいう人は凄いと思いますが、それこそ恵まれてるんじゃないでしょうか。たいていの職場では、ある程度までは、残業すればその分アウトプットの量も質も向上するはずですし、そのことで満足感と残業代を得て幸せになる労働者もいるわけです。そういう人もいる限り、ある程度の長時間労働は無くしようがないでしょう。


 べつに長時間労働の素晴らしさを説きたいのではありません。減らせるもんなら減らせばいいと思います。私が言いたいのは、長時間労働が常態化していても病人や死人を出さずに上手くやってる職場が至るところにあるのだから、事件が起きるような職場には労働時間以外にも色々と問題があるのではないかということです。労働時間以外に重要なストレスの原因がたくさんあるのに、それらを改善せずに「労働時間の問題だ」というような言い方をしてしまったら不幸でしょう。


 従業員に長時間労働をさせるなら、上述のような、やりがいや信頼を感じられる条件を作り出さなければなりません。そして新入社員に月100時間の残業をさせる程度にやりがいを感じさせ、信頼関係を築くことができる上司や先輩は、世の中にはたくさんいて、そんなに特殊な能力ではないと思います。
 また、やりがいを感じさせることまではできなかったとしても、本人がやりがいを感じていないことを察知するのは難しいことではないでしょう。職場のやり方に合わない人は必ずいるものなので、結果的にやりがいを感じさせることができず相互の信頼関係もないのなら、長時間労働も強いてはいけません。たいていの職場では、そういう人を前線の社畜部隊と同列には扱わないような配慮が自然と行われているわけです。そうしないと、社畜たちも良心の呵責を感じますからね(良心をもった社畜ならば、の話ですが)。


 逆に言うと、自殺者を出すような職場の上司や同僚は、労働時間を縮められなかったという責任もあるでしょうが、それ以前に最低限の良識や良心を持たない人間である可能性があります。今回の電通の事件だと、信頼関係が築けていなかったことと、信頼関係が築けていない若手に社畜たちと同レベルの過重労働を強いたことに加え、セクハラ・パワハラも横行していたみたいなので、文字通り人間のクズどもだったんでしょう。
 電通の件にかぎらず一般論として言うのですが、上司や同僚がクソな奴だったせいで社員が自殺したのに、「労働時間が長かったから自殺した」みたいな捉え方をしてしまうと、対策を間違えるでしょう。「じゃあ残業が少なければそいつらのチームで楽しく働いていけたのか?」って問題です。
 過労の末の自殺者を出した上司に対して、「今後は部下の労務管理をしっかりやるように」という指導をすると、残業は減るかもしれませんが、ろくでもない奴と働いているのだから従業員の「やりがい」が増すわけではないです。労務管理はもちろん徹底すればいいんですが、悲劇を繰り返さないためには、他のチームメンバーもろともクビにするか左遷したほうが良いかもしれません。
 人間のクズと一緒に働くのは、長時間労働より辛いんですよ!
 
 

そうは言っても限界はある

 仕事にやりがいが感じられれば、ある程度の長時間労働には耐えられると思うのですが、そうは言っても限界はあると思います。「これを超えたら、やりがいもクソもない」っていうレベルはあるはず。
 自分の経験でも、あのピーク時の労働もあと2ヵ月ぐらいなら続けられた気がしますが、半年連続で休日が1日もないとかになってくるとさすがにギブアップすると思います。鬱になるというより、仕事を放り出して辞めると思いますが。
 徹夜作業も、週1回ぐらいならべつにそれが数年続いても(実際続いてましたが)余裕ですが、週3回だとさすがに嫌になるでしょうね。どっちかというと、精神面より身体にガタが来そうですが。


 内容的・体力的に辛い仕事であったとしても一時的には耐えられるものですが、重要なのは「これは一時的なものだ」と本人が理解していることだと思います。経理の担当が決算の直前に忙しいとか、IRの担当が株主総会前に忙しくなるとか、そういうのはどこの会社でもあると思うのですが、そういう季節的なもので「この2ヶ月を乗り切れば終わる」ことがわかっていれば、さほど辛くないように思います。季節的なものでなくても、たいていの辛い仕事は永続的ではないので、「そのうち終わる」と思ってやる分には頑張ることができます。
 逆に、同じ労働でもいつ終わるのか分からないと耐え難いわけですが、新人の頃は「この辛い仕事がいつまで続くのか分からない」っていう感覚で暗い気持ちになることがけっこうあると思います。


 上司や先輩は何年も働いているから、辛い時期があってもそれが「終わる」という経験を何度もしているし、最悪の場合の「終わらせ方」を知っていたりもします。しかし新人にはそれがありませんので、「逃げ出さない限り、今の辛さが永遠に続くのでは」みたいな気分になってしまうことはあると思います。
 そのせいで新人や若手社員については、過重労働に耐えられる「限界」も低めに見積もっておかないといけないと思うのですが、新人だからこそバシバシ働かせようというようなアホなことをやってる職場はけっこうあるかもしれません。
 私の職場に、「あいつはまだ徹夜の身体ができていない」みたいなことを言うベテランがいました。徹夜が状態化していることを示すヤバいセリフですが(笑)、鍛錬と淘汰を経た「選ばれし中堅・ベテラン」だけが長時間労働をすべきであるというのはある意味正しいような気もします。