The Midnight Seminar

読書感想や雑記です。このブログの裏で始めた統計&プログラミングのブログのほうがアクセスが伸びてしまい、こっちが裏みたいになってます。

スプラトゥーンが子どもをキレやすくする?—ゲームの悪影響に関する最近の実証研究論文を読んでみた

 年末年始は風邪で寝込んでいたこともあり,時間がなくなったので年賀状を書くのもサボって論文を書く(ためのデータ解析のやり直し)作業をやってるのだが,息抜きにYahoo!知恵袋でスプラトゥーン関連の質問を検索してたらヘンなのがあった.
 detail.chiebukuro.yahoo.co.jp
 

 スプラトゥーンはプレイヤーを「イラッと」させるところがあり,子どもがキレやすくなってしまうと懸念しているらしい. 
 知恵袋上で回答も書き込んでおいたのだが,関連する内容を簡単にここにメモしておこう.


 なお,タイトルがミスリーディングだったかもしれない.本エントリではスプラトゥーンの影響を論じた論文を参照しているわけではなく(そんな論文まだ無いと思う.),テレビゲーム一般についての論文を参照しながらスプラトゥーンの悪影響について考えようと思ったものである.
 
 

「ゲーム脳」はトンデモ説?

 10年以上前に『ゲーム脳の恐怖』という新書が発売されて話題になっていたが,発売当初からボコボコに叩かれていたのを覚えている.
 覚えているところでいうと,評論家の宮崎哲弥氏が右派言論誌の『諸君!』で連載していた新刊新書のレビュー記事で,非科学的だと厳しく批判していたのを見て,結局この本は買うのをやめた気がする.その後も折にふれてこの本が叩かれているのを目にしてきた.たぶん,同時期ぐらいにベストセラーになった『ケータイを持ったサル』みたいな風情のトンデモ本なんだろうと,読んでもないのに決めつけることにした.*1
 

 べつにこの『ゲーム脳の恐怖』にかぎらず,ゲームの悪影響とかもっと広く言って「メディアの悪影響」論については,「世間で言われているような悪影響は,科学的には実証されていない」と言われることが多いように思う.暴力的コンテンツが凶悪犯罪を誘発するという説や,ポルノコンテンツが性犯罪を助長するという説が正しいかというと,科学的にはイマイチ怪しいというわけだ.
 
 「実証されていない」という言い方だとふつうの人には消極的に聞こえるというか,「悪影響は無い」のか「悪影響を検証する研究が行われてない」のかよく分からないかもしれないが,実証研究というのは「こういう効果があるはず」という仮説を立てて,その効果の検出を実験により試み,効果が明確に認められなければ「仮説は支持されなかった」と主張するというスタイルになっている.(念のため言っておくと,趣旨としてはそいう主張になっているということであって,統計的仮説検定の手続きはむしろその逆のロジックである.*2
 だから,効果が「ある」ということが判明するときはけっこう明快なのだが,効果が検出されていない段階でその結果をどう解釈するかは微妙な問題だ.
 「暴力的なゲームは暴力性を助長する」というのは,一つの仮説とは言えるが,こういう大雑把な命題は直接検証することができない.だから実験をやるときはこれをもっと細かく定義して,「こういう条件でこういう被験者にこういう刺激を与えると,こういう方法で計測されるこの数値にこういう効果が見られるはず」というような仮説に置き換えて検証することになる.そうすると,この仮説が実験により棄却されたところで,「いや,仮説の置き換えかたがちょっと変なんだよ」とかツッコミ始めればいくらでもいちゃもんを付けることはできる.
 これは血液型性格診断にも言えることで,心理学徒はだいたいしたり顔で「科学的に反証されている」とか言うのだが,反証されているのはあくまで上記のような「細かく定義した仮説」にすぎないので,血液型性格診断を信じる人は,「実験時に設定された仮説に問題があるかもしれない」と言い続ければ常に水掛け論に持ち込むことが可能である.
 実際,昔台湾人がアメリカで書いた血液型性格診断の論文を読んだら,「A型はやさしい,O型は外向的,B型は神経質,AB型は不誠実」*3という仮説を検証する形になっていたのだが,「え,それ仮説がちょっとおかしくね?」と日本人なら思ってしまうだろう.血液型によってビッグファイブ*4のスコアに偏りが無いことを示している論文などもあり,その論法に反論しようとすると研究蓄積の多いビッグファイブ仮説にケチをつけなければならないので,けっこう難しくなる気はする.
 
 

ゲーム脳に関する研究

 さてゲームの悪影響の話に戻ると,Google Scholarで10分ぐらい検索しただけなのだが,日本語で読める解説としてはイカのような2006年のお茶大の記事があった.
 ざっくり言えば「いろんな説があって難しいですね」みたいな話だ.


子どもたちの脳は今?(1)—ゲーム脳について—
子どもたちの脳は今?(2)—ゲーム脳について—
 
 

今までの研究では,視覚的知能がむしろ上昇するといわれています.空間表象能力,図像技能や視覚的注意も伸びる.テレビゲームはこれらの訓練になる.

一方では,確かにテレビゲームをしていると人と疎遠になるという影響はあるかもしれません.しかし,テレビゲームというのは,ソフトの貸し借りをするとか共通の話題をもつなど人間関係を円滑化する要素もあります.テレビゲームをやってうまくなると,みんなから尊敬される.向こうから寄ってくる.そうすると人間関係が下手な子どももうまくやれてしまう.両方の影響が,相殺されている.その証拠に,大学生以上になるとテレビゲームをやっていると不適応になるという研究データがあります.大学生くらいになるとテレビゲームができても尊敬されない.いい面の恩恵にあずかれないんですね.

学習説というのは,テレビの暴力シーンが暴力性を高めることを肯定する説でして,暴力が良いものであるとか,問題解決の手段として有効であるという価値観が学ばれてしまう.それが一番重要なことだといっています.これを実証している研究は多く見られます.(中略)今テレビの暴力シーンの悪影響があるかないかといえば,ある.ただ,それはあくまで要因の一つであって,暴力シーンを見ただけで犯罪が起きるとかいうことはまったくないわけです.


 など色々なことが言われている.大人がゲームやってるほうがヤバいようだwww
 

 少なくとも,「もともと暴力的だから暴力的なゲームを好んでやっている」のか「暴力的なゲームの影響で暴力的になったのか」が区別できないような研究も多いとか,ゲームには知能や社会的スキルの発達に肯定的な影響も存在するという説もあることなどは,知っておいて良いだろう.
 

最近の実証研究論文

 ところで,私は何となく今まで,よくしらないままに「ゲームの悪影響みたいな話は,科学的にはことごとく否定されている」みたいな印象を持っていたのだが,以下の論文をみてみたらそうでもなかったようだ.


Adachi, P. J., & Willoughby, T. (2011). The effect of video game competition and violence on aggressive behavior: Which characteristic has the greatest influence?


 2011年に出された比較的新しい論文である.冒頭あたりで先行研究に触れられているのだが,暴力的なゲームが子供の攻撃的な振舞いを助長するのかどうかについては色々研究があり,「そういう悪影響はみられなかった」という研究がいくつもある一方で,「やっぱり悪影響ある」ことを示す研究も存在するようだ.引用されてるのは比較的最近の,2000年代以降の論文が中心である.
 この論文の趣旨としては,ゲームの特性を「Violence」「Competitiveness」「Difficulty」「Pace of Action」の4側面に分けて評価し,特に「Violence」(暴力性)の効果と「Competitiveness」(競争性)の効果が先行研究においては分離されていないので,それぞれ独自の効果を改めて検証するという点に主眼が置かれている.
 
 
 どうでもいいっちゃどうでもいいが,ゲームの選定にあたっては,たとえばPilot Study 2のところで

After extensive testing by the first author, four games were selected that appeared to be matched on difficulty and pace of action. Two of the games appeared to be equally violent, and the other two games appeared to be equally nonviolent.

というような記述が出てくるように,筆者は相当なゲーマーであることが伺える.


 最初の実験について手続を一応書いておくと,まず被験者は「これから,ゲームに関する実験と,食べ物に関する実験の2つに参加してもらいます.両者は関係ありません」という教示を受ける.そして暴力的/非暴力的のいずれかのゲームをプレイさせられ,終了後にそのゲームの特徴を評価する質問に答える.
 次に,被験者の暴力性が測定されるのだが,その方法は,「別の人に飲ませるドリンクに入れるからし(hot source)の量を決めてください」という課題を与えるもので,要するにからしをたくさん入れようとする奴はサディスティックってわけだ.この"The hot source paradigm"(「からし法」とでも言えばいいのか?)という手法は別の研究から借りてきているもので,その妥当性を一応チェックするために,質問紙による攻撃性の測定もあわせて行っている.
 さらに,私は知らなかったのだが,suspiciousness questionnaireという質問紙に回答させて,実験の意図を見抜いている被験者を特定し,そういう被験者のデータは結果から除外している.


 結論としては,「暴力的な表現」それ自体は,少なくとも短期的にはプレイヤーの「攻撃的な振舞い」にさほど影響を及ぼしてはいないことを示している一方で,「競争性」は「攻撃的な振舞い」を助長しているという結果を示している.
 これは,冒頭の知恵袋の質問者の問題意識に近いと言えなくもないだろう.スプラトゥーンはまさに激しく「競争的」なゲームであり,これにハマっている廃人たちが,ローラーの待ち伏せに引っかかったり,同じチャージャーに何回も続けて狙撃されたり,ヤグラ上からの「カモン」が無視されたり,編成で事故って塗る係がいなくなったりするたびに,「イラっと」して攻撃性を高めていることは間違いない.


 なおこの論文では,被験者が大学生なので今後は他の年代でも実験しなければならないことや,短期の効果しか測定できていないので長期の影響は分からないといった限界が挙げられている.
 しかしその前に,「競争性が攻撃性を助長する」というのが正しいとして,それって「テレビゲーム」に限った話なのかという根本的な疑問があって,はたしてこの論文は「テレビゲームの悪影響」を論じているといえるのか否かも定かではないという気がしてくるな.そもそも論文1本斜め読みしたぐらいではよくわからないし.


 しかしまぁ,とりあえず,「ゲームの悪影響なんて科学的には否定されている」みたいなことを言う人がいたら,「いや,たしかに明確かつ系統だった証拠が得られているわけではないのですが,2011年にアメリカ心理学会のジャーナルに載ったカナダ人の論文をこないだ読んだら,ホットソースパラダイムという手法を用いた実験を行っていてですね…」とかしたり顔で語っておけば,「へぇ」等のリアクションを得ることぐらいはできると思われる.


 なお個人的には,テレビゲームの悪影響は,視力に関するもの以外はあまりないと思っている.子どもなんてどうせずっと遊んでるんだし.
 スプラトゥーンについていうと,競争性もあるだろうけど,その一方で仲間とともにがんばるみたいな,世間的には良いとされている感覚が刺激されているようにも思う.
 もはや研究とか関係ない単なる個人的な感覚論だけど.


 ・・・さて,タイトルで「考える」と謳った割にまだ大して考えてないわけですが,これ以上時間を使うわけにもイカなくなってきたので,自分の研究に戻ります.

*1:あとで考えたら,買ったような気もしてきた.きちんと読んでないことは間違いないが.

*2:「効果がない」という帰無仮説を立てて,統計的に,その帰無仮説を棄却することで,もとの仮説を支持するという段取りになる.

*3:台湾や香港における「血液型性格診断」はそういう内容になっていると書いてあったと思う.

*4:人間の性格を測定する尺度をいろいろ精査していくと結局5つの要因に収斂していくという,長年に渡り支持されている有名な学説がある.