The Midnight Seminar

読書感想や雑記です。近い内容の記事を他のWeb媒体や雑誌で書いてる場合があります。このブログは単なるメモなので内容に責任は持ちません。

感性を研ぎ澄ます「手書き/手描き」

 キーボードとマウスで文章などを書いている時よりも、「手書き」の時の方が脳が活性化しているという説があります。たとえば……

 [動画]光トポグラフィがひらく未来
 http://www.kagakueizo.org/2009/04/post-183.html


 手書きの場合、脳が活発に働いて、血流を示す赤い部分が濃くなることがわかる。
 しかし、キーボードで打つと、反応が鈍い。


 ↑の動画では、実際に手書きの方が脳が活性化しているという実験結果が紹介されています(4分経過あたりに出てきます)。
 もちろん血流の測定だけでは証明にならないことがたくさんあるだろうし、「活性化」なんていうのはそもそも大雑把過ぎる評価であって、何に役立つ「活性化」なのかなど、色々分解して議論しないと駄目でしょう。
 でも、経験的な実感から言って、「PCよりも手書きで書いた方がいい」という局面は実際に結構あります。


 特に「アイディア」を出したり、「イメージ」をふくらましたり、企画の「全体像」をまとめたりする時は、紙に手書きしながら考えた方が、頭が軽快に動きます。で、手書きで枠組みや方向性を作った後に、PCに一気に打ち込んで肉づけを行い、紙に印刷してまた手書きで修正のアイディアを入れていくというのが効率的だと思います。周りにも、そう言う人は多いですね*1
 ネットでちょっと検索してみても……

 「手書き」と仕事の生産性:  どうしても「手書き」が必要になる理由
 http://jikan.livedoor.biz/archives/51863548.html


 手書きのメモの方が自由だ
 (略)
 手書きは「アイディアが途切れない」という感覚が強い
 (略)
 手書きで文字を書くことは、「気持ちを落ち着けたり」、「やる気が出ないときにやる気を引き出したり」、「起き抜けのあまり働かない頭を活動させたり」 ・・・等々の効果がある

 「脳トレ」でビジネスに勝つ! 〜戦略脳の身につけ方
 http://www.kddi.com/business/oyakudachi/square/front/notore/02.html#a02


 キーボード入力の場合はスペースキーを押すだけで文字が出てきますが、手書きの場合、漢字を頭の中で思い出してから書く必要があるため、脳の前頭前野が大きく活性化されるのです。


 と色々記事が出てきます。
 「手書きの時は漢字をイメージするから脳が活性化する」とかいうのは、あんまり関係ない気がしますが。*2
 理論的な根拠は何もないですが、あくまで個人的な実感*3を整理しておくと、

  1. 指先の感覚がアウトプット(文字や線)に直結しており、手触りで仕事している感じがする。
  2. 紙の上は自由に使えるので、空間認識の感覚でイメージが刺激される。
  3. シャーペンの芯が紙の上を滑って行く時の微妙な感触が、神経を鋭敏にする。*4
  4. シャーペンの芯と紙の摩擦音も、感性に良い刺激を与えてくれている。
  5. 紙の上で色々考えていて、ダメだと思ったときに紙を丸めて捨てると、頭の中にビシッと区切りがついて、気持ちの良いリフレッシュ感を覚えることができる。

 ……などなど、要するに「手触り感」というか「肉体で思考する」という感覚が、重要な働きをしている気がします。


 MITの石井裕教授が以前、NHKの『プロフェッショナル』に出演して、触覚による操作性(Tangible user interface)を追求したコンピュータの開発について説明して、「模造紙にマジックで書きながら議論するのは、議論の過程を残せるからだ」とか、「現在のPCで操作できるのはヴァーチャルな世界だが、それに対して手で触れられるものには圧倒的なリアリティがある」とか、「肉筆のぬくもり」とかいう話をしていました。
 で、これらはたしかに大事だと思うし、ウィキペディアの「タンジブルUI」の項にも書いてあるような、「入力が速くなる」とか「複数人で同時に操作できる」というメリットも重要でしょう。
 でもそれはそれとして、個人的には、「さわれる」ということが人間の感性を鋭敏にしてくれるんだという論点が追究されるとさらに面白い気がします。

*1:とくに優秀な人ほど、意外とアナログなツールで仕事していて、「資料作成の第一段階のメモは、手書き/手描きで作成した方がいい」という人が多い気がします。まぁ、私はべつに優秀ではないんですが。

*2:「漢字を覚えるため」には手書きで書いたほうがいいというのは確かでしょう。だけど、「発想とかイメージを膨らます」という過程に関していうと、漢字をイメージするから脳が活発に動くというのはあまり意味のない仮説のような気がします。

*3:「個人的」を強調するのには理由があります。本になって出版されてるようないわゆる「仕事術」は、自分の個人的な感性にマッチしないとほとんど意味はなくて、仕事を効率的に進めるノウハウにたどり着きたいのなら、自分が本当に持っている「個人的な感覚」を探り出すべく、自分の内面(腹の中)を問い続けることにこそ意味があるからです。

*4:完全に個人的な実感の話ですが、硬い机の上にコピー用紙を1枚だけ敷いて、HBのシャーペンで消しゴムは使わずに書いていくというのが、最も神経を鋭敏にしてくれる感じがしています。だから、ボールペンは使わないです。また、シャーペンも、お気に入りの特定のやつじゃないと、思考が鈍ります。